第16話 何のために生きてんの?

 「何のために生きてんの?」

 何かとすぐに怒ったり、不機嫌さを撒き散らしたりして、周りに気を遣わせるタイプの人間に対して、そう感じることが多かった。

 今日私は1人、テレビ業界特有?恐怖のスタンプラリーをしてきた。昔の映像素材をテレビで使用するにはお偉いさんたちのハンコが大量に必要なのだ。社内の人だけではない。広くて迷路すぎなテレビ局にいる、名前も知らない偉いやつにペコペコしながらラリーしないといけない。そんな人たちにグチグチ言われてハンコ押印を却下される。権利関係の問題?尺の長さ?

 「知らねえよんなこたぁ!何も聞かされてねえんだよ!」

 という話で。こういう時は電話で先輩に相談、そう習った。だが、私をスタンプラリーに招待したその先輩は「〜したほうがいいかもー」「〜じゃない?たぶん」などとほざき、全く把握してない。スタンプが貯まるごとにストレスと惨めさが溜まっていく。テレビ局の暗い階段のそばでうなだれてみても、誰も助けてはくれない。当たり前だよね?みんな忙しいもんね?はは、ははは。 

 「何のために生きてんだろ」って思って。先輩に電話でスタンプラリーの攻略法を何度も何度も聞いて。結局そんなのなくて。探り探り自分で何とかするしかないけど、何もわからないから。電話越しに態度が悪くなっていってた。

 どうにかスタンプを集め終わり、解放されてホッとした瞬間、「何のために生きてんの?」という言葉が反芻した。冷静になった私が、余裕がなくてイライラを抑えられていなかった私を刺すように。先輩だって上の人からスタンプラリーの攻略法をロクに教えてもらってないはずだ。なのに、あからさまに態度に出して、行き場のない怒りが漏れ出して、気遣わせて。テキトーだけど、面白くて憎めないこの先輩のことが好きなのに。

 帰りの電車、先生に怒られているような座り方で猛省した。こうなりたくないって思ってる人間に私は、私は。

 ああ。こうやって私も誰かに「こうなりたくない」って思われる人間になっていくのだろうか。そうなっていたら誰か、言ってほしい。

 「何のために生きてんの?」って。

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