第17話 君にあげる

 午前中の授業がやっと終わり、昼休み。母が作ってくれた玉子焼きを頬張る、至福の時間を邪魔してくる男が1人。

 「1人で食べてんの?良かったらおれと食べようよ」

 私は次に何を食べるかで忙しいのに、知らない人とご飯を食べる意味が分からない。

 「大丈夫」

 「そんなこと言わずにさっ」

 周りの女の視線がチクッと刺さって痛い。そういえばこの人、学校で人気のイケメンって誰か言ってたっけ。

 「大丈夫」

 「…そっか、また誘うよ」

 そう言って彼は教室を出ていき、「ダメだったー!」と大声を響かせた。その周りから「当たり前だろ。あの鉄壁の美女を落とせるやつなんていねーよ」などと友達らしき人が茶化していた。チクッとした痛みがなくなったと思ったら、心臓に突き刺すような痛みがどんどんと近づいてきた。

 「いいよねー美人は!」

 私の目の前に座り、下から覗き込むように笑顔を向ける。ただ、痛みは先ほどよりもずっと強く、トゲトゲしい。無視して占い付きのグラタンを食べていると

 「ほんと羨ましいー。美人に生まれて良かったね、早見さん」

 何が言いたいんだコイツ?そう思っていたのは小学生の頃まで。小さい頃からずっと言われ続けてきた私が、高校生にもなってその文脈に気づかないわけがない。なるほど、アイツのことがね。興味ないけど、至福の時間を邪魔されてるのは私の方なんだよな。

 「いいよね、普通の人は」

 一瞬の沈黙。目の前の女が想定内の表情と言葉を投げかけてくる。

 「は?舐めてんの?」

 「ん?褒めてるんだけど」

 「ちっ、くそムカつく」

 「なんで?」

 「美人だからって調子に乗りやがって。そうやって甘やかされて、許されてきたんだね」

 「どういう理屈?」

 「あー!うざいマジで。ほんと目障り」

 「どっか行けばいいじゃん」

 「死ねよ。性格ブスのくせに」

 全く関係のない論理を突きつけてくるなーこの女は。と呆れながら笑いそうになるのを必死に堪えている間に、そいつは目の前から消えていった。私に文句言うよりあのイケメン君?にアプローチした方がよくない?せっかく私に断られてチャンスなのに、訳が分からない。

 そもそもなんで、存在するだけで疎まれたり嫉妬されたり怒られたりしなきゃいけないんだろう。こんな顔に生まれたかった訳じゃないのに。ああ、そういえば中学の時、親友にそれを相談したら「贅沢な悩みだね」って言われたっけ。その頃からかな、人と関わることを辞めたのは。

 至福の時間はあと5分。私は玉子焼きと冷え切ったご飯を急いで口に入れた。

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