第9話自己満が、ありふれる

 あいつらが勝手に出会って、勝手に恋して、勝手に気持ちよくなって生まれたのが僕。そして、勝手に期待して勝手に失望する。小さい頃からあいつらは、僕には才能があると言って様々な習い事をさせた。だけど、どれもこれもつまらない。才能? そんなものはどうだっていいし、興味はない。ただ、ありふれた日常の中にある小さな幸せを、友達との何気ない会話を、好きな人とのかけがえのない瞬間を、大事にしたいだけなのに。

 いつも笑顔の兄ちゃんが羨ましい。あいつらから放任されて自由で、毎日が楽しそうで。しかも僕に優しくしてくれる。大好きなお兄ちゃんだ。

 おれは弟が嫌いだ。おれと違って背が高くて、顔もカッコよくて、頭も良くてスポーツも出来る。おれの得意なゲームでさえも勝ったことが無い。才能溢れる「あっち側」のクセに頑張ろうとしない。でも、結果だけは出す。

 そして、やたらと親に反抗する。おれがアイツと親の間を取り持って、なだめて、気を回して、何とか収まる。親は、おれを見ようともしない。おれがいないと大事に大事に育てたアイツと口もきけないのに。家族としての形を保てないのに。

 私の子どもは私に似ている。私のような普通な人間は特別な存在に憧れを抱く。劣等感が心を支配してしまう。ましてや自分の弟となると、なおさらだろう。だから、メンタルケアは欠かさないようにしている。そのおかげで、とても素直で優しくて、人の好き嫌いをしない人間に育ってくれた。

 あの子もお兄ちゃんみたいになってくれればいいのに。毎日ご飯を作ってあげて、家事もして、いろんなことをさせてあげているのに反抗してくる。あの人は仕事ばかりで子どものことは全く見ないし、私が反抗されて心がぐちゃぐちゃになっている時も助けてくれない。こんなに頑張っているのに、誰にも感謝されない。

 あの子は私の子ではない。雷を伴う激しい雨が降った日、高架下にあの子は捨てられていた。あの子にも、兄にもそのことは伝えていない。知らない方が幸せだと思い、妻と秘密にしている。まあ、私の遺伝子が組み込まれた存在が、勉強もスポーツもあんなに良く出来るわけがない。本当の親はさぞ優秀なのだろう。

 でも、血の繋がりの有無が何だと言うんだ。こんなに仲の良い家族は他にいない。私は二人とも愛している。自分たちらしく生きていって欲しい。だから、自分の考えを無理やり押し付けることはしない。あの子たちの個性を尊重し、一人一人と正面から向き合っている。

「僕にかまうな」

「おれを見ろ」

「私に感謝しろ」

「良い家族だな」

 今日も彼らは、家族だ。

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