第10話 非常口の悪魔

 人には非常口が必要だ。社会や集団に揉まれる中で擦り減っていく神経、疲弊していく心。逃れる方法は人それぞれだが、おれにとってそれは薄暗い光に照らされたこの場所だった。校舎二階の理科室の奥、古びた扉を開けて階段を6段下り、2段上がると今日もコイツは、煙幕と共に現れた。

「やほー、今日もボッチ飯ってやつ?」

「別に」

 コイツは人間の子どもの姿をしているが、額に小さい角が生えている。

「君は友達がいないの?」

「別に」

「何でここに来て、僕を呼ぶの?」

「なんとなく」

 昼休みになるとここで、ソシャゲをやりながらサンドイッチを食べるのがおれの日課だった。

「君はここが好きなの?」

「ここ以外が嫌いなだけ」

「そっか。じゃあ」

 無邪気な顔でコイツは角を撫で始めた。

「消したよ。君の嫌いな場所」

「は?」

「見て」

 扉の外を見ると真っ白な世界が広がっていた。

「これで好きな場所だけだね」

 おれはもう、この非常口から逃れられない。

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