幼稚園②
「今日はあかねちゃん、水色だよね?」
みどりちゃんと砂場であそんでたら、あかねちゃんがそばを通っていったから、
ボクはみどりちゃんに言ったんだ。
「なにが水色?」
「えっ? あかねちゃんがだよ?」
「だから、あかねちゃんの何が水色なの?」
「だーかーらー、あかねちゃんが」
「なにそれ?」
みどりちゃんがボクの掘った穴に、どんどん砂を入れ始めたので、ボクはあわてて、
「だって、ほら、たけるは緑で、みどりちゃんはさ、今日はピンクじゃない」
って言ったら、みどりちゃんは急に立ち上がった。
「たけるくんがみどりで、みどりがピンクとか、何?」
怒った顔でそう言って、ボクの掘った穴に、砂を蹴って入れて、
ドンドンと上から踏んで、ボクがせっかく掘った穴をふさいでしまった。
「イミフメイ。ほんっと、イミフメイ」
夜、ママにそのことを話したら、ママは困ったような顔をした。
「あんたが変なこと言うからじゃない」
「変なことなんて言わないよ」
「じゃあ、あかねちゃんの何が水色だったの? みどりちゃんの何がピンクだったの?」
「みどりちゃんとおんなじこと聞かないでよ」
「だって、意味がわからないもの」
「なんでわかんないの? ママだって今日はレモン色じゃない」
ママは、ふぅってためいきをついて、
「ごめんね、あんたの見えてるものは、ママにはわかんない」
って言って、その話はそこまでになった。
なんでみんなわからないって言うんだろう? 誰かを見たとき、パッと頭の中に色が見えるじゃない。そうだ、パパが帰ってきたら、パパに言ってみよう。きっとパパならわかってくれるさ。だって、男同士だもん。ママは女の人だから、見えないんだよ、きっと。そうだ。そうに決まってる。
ご飯の後、テレビを観てたら、パパが帰ってきた。シュッチョウに行ってたから、お土産をくれて、美味しそうなチョコレートクッキーだったけど、もう遅いから明日のおやつにしなさいってママに言われてあきらめた。
「ねえ、パパ、パパは見えるよね? 色」
「色? 色は普通、見えるだろ?」
やった。やっぱりだ。ボクは嬉しくなった。
「じゃあね、今のママは何色?」
「は? ママの色? ……白と青のしましまだな」
「違うよ、それは服の色じゃない」
「何の色だよ?」
「だーかーらー、ママの色さ」
パパのご飯を用意してたママが、
「も~、いい加減にしなさい。ほら、パパ疲れてるんだからね」
って言ったけど、ボクはパパならわかってくれるって思ってたから、
「もう、今日のママはレモン色だったの。パパが帰ってきて、ピンク色になったけど」
って言ったんだ。そしたら、パパはだんだん怒った顔になってきた。
「もー。なんなんだよ。意味わかんねえな」
これ以上きいたら、ボクは叱られそうだったから、そこまでにしようと思って言った。
「ごめんなさい。でもホントに見えるんだよ。パパはね、今、黒っぽい青」
パパはためいきをつきながら、ボクの頭をポンポンと軽くたたいた。
「わかった。もうその話は終わりだ。パパはご飯にするよ」
「あの子、大丈夫かな? ちょっと何か普通じゃない感じがする」
「病院にでも連れていく気か? 何の病気扱いしてんの?」
「大丈夫だよね?」
「だーいじょうぶだって。子供はみんな、想像力豊かなのさ」
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