幼稚園①

「ねえパパ、聞いて。ボクね、今日ね、みどりちゃんに勝ったんだよ」


 ボクが幼稚園から走って帰ったとき、めずらしくパパは家にいて、だからボクは息ができないくらいの調子だったんだけど、嬉しくてパパに報告したのさ。


「ほぉ。何で勝ったんだい?」


「えーとね、えいじくんがクラスのみんなでやろうって言ってね、かなこ先生がいいよって言うからさ、みんなでいろいろ決めたりしてね、ええと、ボクは3番目ってことになったんだけどさ、そしたら相手がみどりちゃんだったの!!」


「で、何で勝ったんだい?」


「みどりちゃんはすごいんだよ。こうやってね、ひょいって相手をひっくり返すんだよ。」

 ボクは、みどりちゃんの必殺技をまねしてみせた。そしたら、パパはちょっと怒ったような声になった。


「だから、お前は、何をしてて、みどりちゃんに勝ったんだ? ってパパは聞いてるんだけどね。さっきから」


「えっ? あっ、ええと、ええとね。あっ、ボク、すもうだって言わなかったっけ?」


 パパはぼくの顔をながめながら、ふぅ、と、ため息をついた。

「お前、女の子に相撲で勝って喜んでるのか? ホントに?」

「うん。でもさ、まさるはさ、あやみちゃんに負けちゃったし、しんごはさぁ……」

「もういい。パパは仕事で疲れてるから寝るよ。お話の続きは、ママにね」


 パパはそう言うと、自分の部屋に行ってしまった。


「ほめられると思ったのになぁ」

 きっとパパはお仕事でヘトヘトで、眠くて、それどころじゃなかったんだろう。



「なぁ、あいつあんな調子で大丈夫なのか?」

「あんな調子?」

「あんな子供みたいな喋り方、なんとかなんないのか?」

「いやだ。なに言ってるの。まだ5歳だもん。そんなもんだよ」

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