第3話

「お気の毒ですが、娘さんの視力は……」

 担当医の宣告を最初に悲しんだのは母だった。私? 私は馬鹿みたいに呆けた顔で他人事の様な反応をしていた。

「なんで……智子なんですか?! だって、まだ高校生なんですよ? これからなのに。人生まだ始まったばかりなのに……」


 母も自分では判っていたのだと。世の中にはどうしょうも無い運命という物が……あるのだと。

 だから、あっくんとは別れた。どうしても言えなかったから。

 あっくんの優しく、はにかむ顔も。少し照れ隠しに怒った顔も。全部私の記憶に閉じ込めておきたかったから。

 彼の悲しんだ顔なんか絶対見たくなかった。だって、最後にあっくんを見た顔が泣き顔なんて。余りに哀しすぎる。



「智ちゃん。本当に、大丈夫? 一緒に行こうか?」

 母が心配そうな声で言ってきた。もう、心配性だなぁ母さんは。

「大丈夫だよ。ちゃんとカイルが居るじゃない。失礼だよ、カイルに対して、ねぇカイル? 」

 私が相棒の名前を呼ぶと、カイルは喜んで返事をした。まるで、(そうですよ、ご主人さまは僕が守りますよ!)と言ってるみたいに。


「じゃあカイル、智を頼んだわよ」

 母は、カイルを撫でたのだろう。側でカイルの尻尾が千切れんばかりに振っているのを感じる。


「行ってきまーす」

 元気よく声を掛けて道路に出た所で、カイルがピタリと止まった。

「カイル、どうしたの? 何かあった? GO!GO! 」

 掛け声を掛けても、一歩も動かないカイルを軽く睨み手を伸ばした時、そっと抱きしめられた。

 だれ、なんて聞かなくてもわかった。

 ――あっくん。

「……サト。ずるいよ、一人で勝手に決めて居なくなるなんて」

 懐かしい、あっくんの声……

 光りが見えなくなった時でも、泣かなかったのに。堰を切った様に流れる涙を止めずに、あっくんにしがみつき泣いた。





「リコ、綺麗だ……」


 式場で淳史が言った。

「当たり前でしょ」と、私は言ってドレスの裾を持ち、バージンロードを父と腕を組み歩きだす。

 一斉に拍手が沸き上がり、感動で早くも涙ぐむ私の目に、淳史とサトさんが赤ちゃんを抱いている。隣には義理の妹もいる。


 白いタキシードを着た旦那様はやっぱ格好良い。

 淳史め、私を振って後悔するなよ。


 今日から私の苗字は加藤になる。



 END


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君と俺の物語 水月美都(Mizuki_mitu) @kannna328

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