第8話 兄弟喧嘩
仕事先の先輩と飲んで帰宅した私を待ち受けていたのは最悪な出来事だった。
広志に、昌輝との事を聞かれ、広志は豹変。
どうやら広志は、お酒を飲むと酒乱だった事が明らかになり、私に手を挙げて来た。
騒動で、私達の部屋に訪れた昌輝だけど――――
私に目掛けて平手が振り落とされた私は恐怖で瞳を閉じた。
「兄貴?嘘だろ?マジかよ……おいっ!兄貴っ!」
声がし昌輝の姿が私の視界に入った。
昌輝は、広志の手を掴み止めに入ったが、広志の勢いに押し飛ばされた。
ドサッ
そして、私の頰は広志の手によって打たれた。
「夏蓮っ!」
「なあ、昌輝。お前、俺の女と寝たんだろ!?」
私の名前を呼ぶ昌輝に対して広志は、そう言うと
「えっ…?」
驚く昌輝に、じりじり迫り寄り、広志は昌輝の胸倉を掴んだ。
「俺の妻に手ぇ出したんだろっ!?なあっ!!キスして関係持っただろっ!?どうだった!?」
「………………」
「今さあ、アイツにどっちが良いか分からせてやる所だったんだよ!」
「…そういう事かよ…」
昌輝も広志の胸倉を掴んだ。
「なあ、昌輝、人の女に、しかも実の兄貴の女を抱いた感想はどうだったんだ!?お前に抱かれる度に夏蓮はイイ女になっていくの気付いてないと思ったんだろっ!?」
「そういう事には反応早ぇんだ!一切抱いてやらなかったくせに!でもさ、綺麗にならねー方が、おかしくね?兄貴が抱いてやれば、こんな事にならなかったんじゃねーの?」
「………………」
「夏蓮は、俺にはもったいない位、スッゲーイイ女になっていく。俺が夏蓮を兄貴よりも愛してるからな!相思相愛だからこそ愛し合っているから綺麗になっていくんだよ!結婚して夫婦なのに、一切抱いてやらないのもどうかと思うけど!?」
「………………」
「それって抱けない理由あるんじゃねーの?」
「そんな事…あるわけがない!」
「じゃあさー、夏蓮以外の女と何でホテル街にいたの?」
「違う!俺は知らない!」
「女の人は、ヤケに兄貴にベッタリだったし。兄貴も満更じゃねー雰囲気。あんなの見たら正直、疑わない方がおかしくね?」
バキーッ
広志は昌輝を殴った。
「…っ!」
「昌輝っ!」
私は昌輝の元に向かう。
「昌輝…お願い広志っ!辞めてっ!」
バシーっ
私は頬を打たれる。
「夏蓮は黙ってろ!」
広志は私に怒鳴るように強い口調で言った。
ビクッ
「自分の女だからとか、奥さんだからとかって、やって良い事と悪い事あんだろ!女に手をあげるなんて最低だな!?」
「どいつも、コイツも…」
「例え兄貴が浮気していたとしても、まだ、兄貴の妻だろ?てめーの奥さんで女なんだよ!夏蓮は、結婚して幸せだって顔してる所、見た事ねーんだよ!もっと見てやれよ!もっと愛してやれよ!」
バキッ
昌輝も広志を殴った。
「………………」
「二人の時間が必要とか、夏蓮が大事だからとか良い言葉並べて…。大体、今日も、その女と飲んで、関係持って帰って来たんだろっ!?」
「……………」
「それとも、その彼女と何かあった感じなわけ!?俺達に手をあげるって事はむしゃくしゃして、お酒飲んで…俺ならともかく、夏蓮に手をあげるってさ…余程の事か、もしくは…離婚覚悟の行動って事なんだよな?」
「………………」
「何か言えよ!俺は夏蓮の味方だし、裏切りたくねーし!俺は、夏蓮を愛してんだよ!」
ドキン…
「なあ、夏蓮に結婚してから愛してるって言った事あんのかよっ!このまま何も変わんねーのなら離婚してくれよ!夏蓮を俺だけのものにさせてくれよ!なあっ!兄貴っ!!」
「お前…本気で…」
「当たり前だろっ!?本気じゃなきゃ関係持たねーだろっ!?俺なら夏蓮を幸せにする自信あるよ!俺達を解放してくれよ!」
「………………」
「嫌なら、もっと夏蓮の事、愛して、見てやれよ!兄貴の女で、妻でもあるんだからな!」
そう言うと部屋を出て行き始める昌輝。
『待って…!』
そう言って
呼び止めたかった―――――
――― だ け ど ―――
私は
ただ ただ
彼の背中を
見つめる事しか
出来なかった………
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