第3話監督と現役選手の決定的な違いとは

 そして僕らのチームである大阪府立満願高校野球部には新入部員が七名。それぞれがこのミーティングで挨拶と自己紹介をする。七名とも地元の市立中学から入学してきた。体の線も細い。実はいろいろと『どこそこの中学の〇〇って奴がうちに入学してるらしいぜ』、『嘘!マジで!あそこってそこそこ強いじゃん。それに〇〇って言ったら他の私立にスカウトされてもおかしくないレベルじゃね?』との話をしていた。でも〇〇君はうちの野球部には入部しなかった。他にも一応名が通った一年生は他にもいた。でもそういう連中は一人もうちの野球部には入部しなかった。理由は単純で一つだけ。


『坊主頭が嫌だから』らしい。


 そういう意味でこの新しく入部してきた一年生部員は根性があると言える。一年前の僕がそうだった。かなり迷った。中学までは髪型に規制もなかったし、そもそも中学野球もレベルの高いところではやってなかった。そして信長監督が再び話を始める。


「この新一年生部員の七名を新たに戦力として加えてこの夏の大会を目指すのだが。夏の予選まで百日切っている。一日一日を大事にするのは当たり前として。そんな中、こうやって貴重な時間をミーティングに費やしているのは理由がある。今後もミーティングに時間を費やす。ミーティング部か!と言われるぐらいにな。ここでもう一つお前らに聞きたい。監督である俺とお前ら選手たちの決定的な違いは分かるか?」


 僕らは当然とばかりに手を挙げる。


「河本。言ってみろ」


 僕と同じ二年生で投手の河本が指名される。


「はい!監督は指導者であり、僕ら選手は教わる立場であることです!」


「何言ってんだ。全然違う。確かに俺は監督であり指導者である。だが『教わる立場』は俺にも当てはまる。お前らから教わることだってこれからたくさんあるだろう。単刀直入に言う。俺とお前らとの決定的な違いとは甲子園へのチャンスの回数だ」


 ざわつく僕ら。そして信長監督は続ける。


「監督である俺は毎年年二回、必ず甲子園へのチャンスはやってくる。現役選手であるお前らはどうだ?高校球児には全員平等に甲子園へのチャンスは三年間で五回と決まっている。それが決定的な違いだ。三年生のお前らはもうチャンスはこの夏の一回のみ。二年生は三回残されてる。この夏、そして秋季大会で勝ち上がって選抜、そして来年の夏だ。一年生は五回。分かるな。俺はこの夏、三年生の最後の甲子園へのチャンスを無駄にするつもりはさらさらない。練習方法はこの一週間見させてもらった。悪いがそこは俺のやり方でこれからはやる。その代わり、このミーティングで最初に言ったこと。『今のままではこの夏も一回戦か二回戦敗退レベル』を取り消そう。いいか?」


「はい!」


 ひょっとしたら、ひょっとすると、そんな気持ちに信長監督は僕らに持たせてくれた。野球は『確率』と『メンタル』のスポーツ。明日から僕たちは変われるぞ!と思った。その矢先に信長監督が言う。


「じゃあこれからグラウンドに出ろ。『明日から』と思ってた奴。甘えるな。『今日から』やるんだよ。練習メニューはすでに組んである。分かったらさっさとグラウンドに出ろ」


「はい!」


 僕ら満願高校野球部が三年生の最後の甲子園へのチャンスへ向けて気持ちを持ってグラウンドへ飛び出す。

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