第4話学生の本文とランニング
「お前らの練習方法はこの一週間見せてもらった。まずは最初のアップのランニング。その前に。グラウンドの外野。草が生えとる。草むしりから始める」
各々が名前の入った白い練習用ユニフォームでスパイクを履き、グラウンドに出た僕らに信長監督はそう言った。
「(そんなん一年坊にやらせろよな…)」
三年生でレフトのレギュラーである川崎先輩がポツリと信長監督に聞こえないよう呟いた。
「おい。川崎。もう一度言ってみろ」
「え?」
地獄耳で川崎先輩のボヤキを聞いていた信長監督と驚いて思わず声に出す川崎先輩。そして信長監督が言う。
「川崎。『え?』って言うな。返事は基本『はい』だ。これは普段からの心掛けで直せる。そして社会に出てからも通用する。『え?』という言葉は仲間内ならいいだろう。だが目上の者に向かっては絶対に使ってはいけない」
「はい!」
「それからグラウンドの草むしりにも意味はある。お前らの学校での成績も見させてもらった。野球だけしか頑張れん奴を俺は使わん。いくら上手かろうとだ。学生の本文は学びである。確かに勉強が苦手なものもいるだろう。苦手なら苦手なりにそれを克服しようと努力せよ」
ざわつく僕ら。信長監督は続ける。
「得意なことはいくらでもやれる。頑張れる。それは意味がない。打つのが得意なもの、守るのが得意なもの。それだけだとレギュラーは取れん。むしろ苦手を克服するのが練習であり、それも私生活や学校での態度に表れる。そして苦手を克服すればむしろ得意が伸びる。守るのが苦手なものが守るのを頑張って練習し上達すれば打つ方も自然と上達するのが野球であり人間の能力だ。今後試験で赤点を取ったものはその赤点の数だけグラウンドの草むしりを他のものより多くやってもらう。当然逆もある。試験で頑張ったものは草むしり免除とする。さあ、さっさと始めろ」
そして三年生から一年生まで全員で外野の草むしりを行う。そして三十分後。
「よし。それでは練習を始める。むしった草はその辺に集めて積んでおけ。俺が後で処分しておく」
「監督!」
キャプテンの市井先輩が信長監督に言う。
「では最初はアップからでいいですか?」
「ああ。いつも通りランニングから始めろ。外野のポール間を二列になって三往復。しっかりと声を出してな。あと、足は全員揃えるように」
僕らはようやく最初のアップであるランニングを始めることになった。でも全員が足を揃えてのランニング。そんなことは今まで考えたこともなかった。
「いくぞー!」
「おー!」
「まんがんー!」
「ふぁい!ふぁい!」
「まんがんー!」
「ふぁい!ふぁい!」
本来なら『まんこー!』と叫ぶのだろうし、ふざけてそう言う奴もたまにいた。でも今は信長監督が見ている。そして前の選手の足を意識して後ろの選手は足を揃える。先頭の二人も横を見ながら足を揃える。
「信長監督さん」
「どうした。マネージャーの永江だったな」
「はい」
二年生女子マネージャーの永江が言う。
「全員の足が揃ったランニングって見ててすごくきれいですね」
「統率された集団とはそういうものだ。心掛け次第で簡単に誰でも出来る」
僕らの最初のランニングが終わり次に本来なら柔軟体操を行うのだけれど。信長監督が柔軟のメニューにもメスを入れる。
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