城市猫三郎はヒーローである
くずもち
ただ一人のヒーロー
――男なら誰しも一度はヒーローになりたいと思うものだ。
……案外そうでもないって?
いーや、そんなことはないはずだ。
正義を胸に悪を打ち倒す、
弱気を助け強きを挫く、
どこからともなく颯爽と現れ去っていく、
そんな在り方を夢想しなかった男などいない。
少年の心の欠片をみんなどこかに必ず持っている。
だって俺もそうだった……っ!
小学四年生の頃、俺は選択を強いられた。
とあるウサギに助けを求められた。
危機が迫っている。力を与える代わりに手伝って欲しい。共に世界を守ろう。
少年だった俺は当然のようにそれに応えた。
地球の命の息吹の塊である≪ジ・アース≫を取り込み、
そして――≪星の戦士≫となり敵と戦ったのだ。
敵は多く、強く、悪辣で、何度も心が折れそうになった。
夢見がちなヒーロー願望だけで選んだ俺は何度も打ちのめされてその度に諦めそうになった。
悩んだことも辛かったこともたくさんあってそれでも得られたものもあって、それを胸にして立ち上がって戦い抜くことが出来た。
敵との戦いは三ヶ月も続いた。
全てが終わった後、戦いの中で出会えた仲間や友人との別れもあったがそれでも俺は少しだけ大きくなれた自信があった。
そして、ただの子供に戻ろうとして――
今度は怪人を率いた悪の秘密結社が湧いてきた。
間をおかずに来るものだから、来るにしてもせめて区切り的にもう少し間を置いてほしかったと思いながら戦って夏休みが終わる前に壊滅。
さあ、新学期の始まりだと気を取り直したところで――
今度は地元の近くの山から古代の遺跡が見つかり、古代人が復活し世界征服を始めた。
この辺りで「……うん?」とは考え始めていたのだ。
その後もマッドサイエンティストがはた迷惑なちょっと世界を滅ぼしかける実験をやろうとしたり、魔術結社が魔界との門を開こうとしたり、超能力に目覚めた集団が自分たちは新人類だからと世界征服をしようとしたり、オカルト教団が神と称して外宇宙のナニカを召喚したり、スーパーAIが暴走して人類を滅ぼしにかかって来たり、異世界に召喚されて魔王と戦わされたり、妖怪やら吸血鬼やらスピリチュアル系が現れたり、その他etc。
とにかく俺は戦い続けた。
この八年間、必死で走り抜けてきた。
最初は一つ一つだったが中学に入ってからは同時に二、三の事件が押し寄せてくるのが当たり前、夏休みやクリスマスなどのイベントタイムだとさらに倍くらいの事件が同時に起こったりもしたが……それでもとにかく頑張った。
そして、ある真実に気付いてしまった。
正直、気付きたくは無かったけど認めるべきだろう。
俺はどうやら――
この世でただ一人のヒーローであることを。
現にほら、
「くっくっく! 運が悪かったな名も知れぬ少年よ。だが、見られたからには始末するしかない!」
「そんな……っ! 逃げなさい。私のことは良いから早く」
夜の二十二時を過ぎて唐突にコンビニのガリッとするバーを食べたくなった俺はその帰りに、何やら怪しげななんかピエロのお面をした男とそして傷だらけの美少女と出会ってしまった。
恐らくは何やらの戦闘が行われていたのだろう。
そして、美少女の方が大きく吹き飛ばされて俺の目の前に弾着。
それを追うように現れたのがピエロ仮面だ。
「…………」
「くくくっ、運の悪いやつだ! 貴様が組織に楯突いたせいでこの男は死ぬのだ!!」
「や、やめえてェええええっ!」
一切の流れがわからないままにピエロ仮面が襲ってくる。
それを必死に止めようとするクール系美少女。
「…………」
ドンッ!!
「ふぶるぁ!?」
「――えっ?」
とりあえず、ピエロ仮面を殴り飛ばした。
大体、美少女と敵対的な胡散臭そうな外見の奴は悪者だ。
経験で知ってる。
時たまに美少女の方が敵キャラで後ろから刺して来たり、呪術を直接ぶち込んで来たり、生き贄に捧げられそうになった経験があるが、まあ美少女に裏切られる分には個人的OKだ。
だって美少女だから……。
「あ、あの……っ!」
唐突に現れて敵っぽい奴を殴り飛ばした俺に美少女は喋りかけて来た。
彼女の視点からすれば当然、何が起こったのかわからないのだから……。
だから、事情を聞こうと口を開いた美少女に対して、
「キミが無事でよかった。運命が俺たちを引き合わせるだろう……」
「……えっ」
これからの経験則的に転校生として自身のクラスに来るパターンだな。
そんな予測をした俺はビニール袋の中のアイスバーを気にしつつ、颯爽とその場から去って行った。
――明日から忙しくなるな。
俺の名前は城市猫三郎。
この世でただ一人にヒーローだ。
城市猫三郎はヒーローである くずもち @kuzumochi-3224
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