第3話 写真部
――6年前・4月中旬。
春の息吹もそろそろ肺活量に限界が来たようだ。
入学式に参加しなかった一件で、私も九条君も先生から目をつけられるようになったけれど、かろうじてクラスにも馴染むことができ、お互いに仲の良いグループで行動するようになった。
私としては九条君との時間が減るのは悲しいけれど、友達とわいわいするのも十分青い春って感じで楽しい。
一方の九条君も数人の男友達とわちゃわちゃして楽しそうだ。放課後も男友達らと遊ぶから勝手に下校してしまうし、お昼休みもそのグループでご飯を食べるから、私と話す時間すら取ろうとしていない。
*
「由佳~、部活動見学行こうよ!…って顔怖!」
男友達と会話している九条君を睨み続けて2分が経過したが、九条君が私の視線に気付く気配は一向にない。眼力勝負に敗北した私は、友達と一緒に部活動の見学へ行くことにした。
私たちが入学した高校は普通科と芸術科に分かれており、普通科の生徒は強制的にどこかの部に所属する必要があった。
「私、別に部活入りたいわけじゃないんだけどな~」
「じゃあ何でこの学校に来たのよ!」
部活動が盛んな高校として有名なこの学校に入学した理由は、九条君が志望していると話を聞いたからだったなんて誰にも言えない。
私とは対照的に部活動見学を楽しんでいる友達のそばをそっと離れて、ふらふら校内を歩いていると、桜の写真が貼られている掲示板に目が留まった。
綺麗な桜の写真を1枚ずつ見ていると、いつの間にか熱中してしまい、思いっきり隣の人の足を踏んづけてしまった。
「あっ、ごめんなさい…って九条君?」
「あれ、由佳もいたのか」
久しぶりに話せたことに舞い上がっている私はさながら写真の桜のようで、できるだけ頬をピンク色に染めないように意識した。
「由佳も写真部興味あるのか?」
「写真部…?あ~!そうなんだよねぇ~、別に入りたいとこないしいいかな~って?」
…嘘だ。この桜の写真たちが写真部によって撮られたものであることすら知らなかった。
「ちょうどいいな、一緒に入ろうぜ」
少し嬉しそうな九条君の顔を見て調子に乗った私は、カメラのことなど何も知らないまま写真部に入部することになった。
*
―――現在。
九条君が写真好きだったという事実には今でも驚いている。
小学校の頃からずっと一緒にいたけれど、九条君からカメラの話などは一切聞いたことがなかった。
というか九条君の趣味すら当時の私は知らなかった。
中学生の頃、九条君を誘ってカフェでパンケーキを食べたことがあるけれど、私がスマホでインスタ用の写真をパシャパシャ撮っているうちに、九条君のパンケーキは姿を消していた記憶がある。
やはりスマホの画質と機能では満足できないのだろうか。
高校時代に九条君が使っていた一眼レフカメラもかなり古いものだったし、写真に無頓着な私の前では気を遣っていたのかもしれない。
こうして日記を読み返していると意外な発見もある。
例えば、私の九条君に対する気持ちの強さなどだ。
わざわざインストールしたゲームもチュートリアルでやめてしまうような飽き性の私が、こんなに丁寧な字で日記をつけ、九条君の言動を事細かく書いているのはとんでもなくすごいことだ。
しかしここまで九条君のことが好きなのに、いまだ私が告白しないのにはちゃんと理由がある。
当時の私は彼と両想いだと慢心していたからだ。
事実婚の恋愛バージョン、自然消滅の発生バージョンとでも考えていた。
要するに馬鹿だったのだ。
彼の秘密を知ってからは何度も「好き」と伝えたはずだから、読み進めるのがつらくなるのはこの先からだろう。
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