声にならない
新吉
第1話
歌が聞こえる。今日も君は歌っている。君はメロディラインを作っていく。僕はそれに歌詞をつけていく。
だいたい、僕の物語がそのまま唄になる。
「明日はどんな唄を歌おう?」
僕が問えば君は言う。ときどき歌うように返事をする。
「好きな歌を歌って踊って、回っていよう」
君はだいたいくるくる回っている。回る椅子はそのために存在している。君を安全にくるくる回し、踊って歌えるように。
メロディーが歌になる。僕がまだ決めかねているから、君は宇宙語を当てはめる。それがまた面白くて、愛おしい。そんな気持ちでいつの間にかことばが降りてくる。ピタッと寄り添ってくる。
そうやって僕らは歌を作る。楽しいけど苦しくて苦しいけど楽しくて。だからたいてい叫ぶ。防音の部屋だから気にせず騒ぐ。暴れる。
声にならない叫び声が、歌いたいと泣いている。君のかすれた声はついに、もう疲れたと呟いた。僕はそれでもなにか歌いたくて、流れる曲を口ずさむ。
僕はガラガラした自分の声が嫌いだとわめけば、君はバカだなあと喋った。話し声を君の魔法でそのまま音楽に変えていく。
歌う君の喉が今度はコーヒーを吸い込んでいく。マグカップについたリップの跡が、空っぽだって教えてくれたけど、口をつけた。なんでもない顔をして、おかわりをついで君に渡す。
歌が聞こえる。君の声にならない唄や、僕の唄にならない物語、君は知っているの?そう感じるような歌もどんどん出来上がっていく。いつか聞いてみたい。聴けるだろうか。明日はどんな物語があるの?どんな歌が生まれるの?
僕らはくるくる回っている。
部屋のすみにあるレコードの回転へ飛び乗るのだ。
今だよ
声にならない 新吉 @bottiti
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