第25話 超絶技巧で、ままならない

「いらさーせぇいー!」


「やってる?」


「やや! お兄さん久しぶりですね!」


俺は、宮田と連れ立って新宿区役所の直ぐ裏手にある、行きつけの無料案内所に入っていった。



美咲ちゃんの子持ち人妻案件でショックを受けた俺は、その後なんとか無難なやり取りをし、足早にその場を辞した。



案内所の顔見知りのスタッフである下一ノ瀬渉しもいちのせ わたるに軽く挨拶すると、今し方傷心を受けた経緯を語ってやった。


シモの世話をさせたら歌舞伎町一とは、本人談。


「そりゃ、まぁ、災難だったと言うか。まぁ、一発抜いて嫌な事は忘れましょうや」


半笑いでそう言うと、狭い案内所の中にいた他の客らしきオッサンも憐れみの眼差しで頷いていた。


一瞬、しばき倒してやろうかと思ったが、今の俺にはそんな気力もない。


「良い店紹介しますから、そんな睨まないでくださいよぉw」


「チッ、まぁいいわ。ちょっと最近来てなかったから、大分新しい店増えたろ?」


ここは歌舞伎町。新しい店が次々にオープンし、また消えていく。老舗の店もない事もないが、今日はちょっと気分を変えたい。

そんな時に、便利なのがこういう所である。


「そんな傷ついたお兄さんにピッタリの店、ありますよ」


俺はこの、ギリギリ堅気に見えなくもないがやっぱちょっと堅気じゃねぇなと思わせる微妙なラインの下一ノ瀬のセンスを信用している。

今まで紹介された店、女の子ともに、俺のストライクど真ん中を突いてくるのだ。


「フーン、で、どんな?」


「ズバリ!『ハンディー・ハンディー』まぁ、いわゆる手コキ専門店ですねー」


「帰るぞ、宮田。もうここには来ねぇよ」


女子校生専門店のパネルをを見ていた宮田に声をかけ、今まで信頼していた下一ノ瀬に別れを告げた。


「イヤイヤお兄さん! ちょっと待って下さいよ! 私がお兄さんにナメた店紹介した事ありますか? 舐めるのが上手な店は紹介しましたけど」


確かに、この下一ノ瀬の紹介でハズレを引いた事はない。

俺の要望や気分に応じて、様々な種類の店を紹介してきた。


しかし、今日紹介してきたのは、手コキ専門店。


「無いわー。手コキ専門店? 無いな。あんなモン、短小包茎のフニャチン野郎の貧乏人が行く店だろうが!」


ハメもしない舐めもしない?

ナメてんのか? まぁ、手コキ専門だから舐めはしないんだろうが。


「乳首は舐めてくれますよ? オプションですけど」


俺の心を読んだのか、コイツ……。


「……イヤイヤ。舐めて欲しいのは乳首じゃねぇんだよ。心の傷なんだよ!」


「先輩、上手いっすね?」


「お兄さん、騙されたと思って、一度だけ! 一度だけでいいですから。この店が気に入らなかったら、その時は自分、この仕事辞めてもいいです」


悲壮感すら漂う真剣な顔で、オススメしてくる下一ノ瀬に根負けした俺は、紹介カードを書くように促した。


「今回は、お前の顔を立てて乗ってやるけど、次はちゃんとした店紹介しろよ?」


「イヤイヤ、本当、大丈夫ですって。絶対気に入りますから。あ、乳首舐めのオプション無料にさせますんで」


「……ああ、頼むわ」

「自分も、お願いするっす。あと、コスも」


別に同じ店じゃなくてもいいのに、宮田も初めての手コキ専門店に興味があるらしい。

その後、宮田はアレコレと要望を伝え、俺は下一ノ瀬に全部お任せすることにした。




下ノ瀬の案内で、通りに面した地下の階段を降り、店内へと入った。


下ノ瀬が店員と一言二言話すと、俺たちは待合室へと通された。


「じゃ、お兄さん。楽しんで下さいね」


そう言うと、下一ノ瀬は手を挙げながら店を出て行った。


「4番の方〜! お待たせしました」


待合室には俺たちの他に三人の客がいたが、最初に呼ばれたのは宮田だった。


「そんじゃ、先輩。行ってくるっす!」


チラッと見えた宮田にあてがわれた手コキ嬢は、今時の可愛いけどすれ違った5秒後には顔を忘れるような量産型女子であった。

まぁ、顔は当たりだろう。

あと、アイツ女子校生には興味ないとか言ってたくせに、オプションで普通にセーラ服着てもらってたな。


俺は、下ノ瀬に全て任せた。ただ待つのみ。

こういうドキドキ感は嫌いじゃない。


他の客も皆んな呼ばれていった。

まぁ、それぞれ担当するお嬢様方はそこそこ可愛い顔してた。

この店、顔見ただけだが結構レベル高いかも。


「こりゃ期待できるかも」


しかし、ここが手コキ専門店という事を思い出し、少しテンションが下がってしまう。


「5番の方。どうぞ」


来た! 

鋭く振り向き待合室の外で待ってる手コキ嬢を素早く値踏みした。


アレ?

何か、俺の担当嬢だけ、顔、素朴じゃね?

全然不細工とかいうわけではない。普通?

特別若い感じでもなく、とうが立ってるわけでもない。

どこにでもいそうな、OLさんみたいな……、イヤ、OL風の制服着てるからだけなのか?


「よろしくお願いします」


声は可愛いらしい、優しい感じで好感度は高い。


まぁ、ダンジョンドロップで懐も温かいし、今日は期待しないで、次は高級ソープでも行こう。




そう思ってた時期がありました。


どう見ても素朴で普通な見た目のミサコちゃん。

テクがエグかった……。


「え、待って、乳首から魔力吸われりゅぅ〜!」


え? そんなオプあるの? 俺、頼んでないけど?

お店から聞いてる? 下一ノ瀬やるやん!

いや、ミサコちゃんやるやん! 


正直、ナメてたわ。手コキ専門店。


俺は、素朴なミサコちゃんの超絶技巧で骨抜きにされ、身も心も癒された。

腰と足がガクガクしてる。ヤバい、これ階段上がれるかな?


店を出ると、猫田軍曹から鬼のように着信が来てた。


チハヤの事、忘れてたわ。

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