第20話 旧知の仲も、ままならない①

「先ほどのパーティーが救援要請してると思うんですが、どうしますか?」


「別にどうもしないが? 宮田ぁ、さっさとドロップ拾って帰るぞ!」


とりあえず事態を収束させた俺達は、討ち漏らしや追加の魔物を警戒しつつも、のんびりと休憩していた。


工藤は、オーガの変異種を確認した段階でスタンピードから逃げてきた探索者のパーティを逃していた。

自分のトコのメンバーは魔力の残りも少なく、撤退より手の届く範囲に置いておく方が安全だと判断したらしい。


「ちょっとは先輩も手伝って下さいよ!」


工藤が言うには、逃してやった探索者パーティが俺達だけでスタンピードを返り討ちに出来るかどうかの判断は出来なかったと思ったらしい。

そうでなくても、迷宮の異常を報告するのは探索者の義務である。

少なくとも、報告を受けた協会が斥候チームを送り込むのは当然の流れと言える。


「一番働いてないクセに生意気言うな! 俺達は魔力を回復中なんだよ! 分前が欲しかったら働け!カス!」

「ヒデェっす! 俺も必殺技出したじゃないですか! それに、そもそも先輩は魔力回復いらないじゃないっすか!」


「俺は警戒もしてんだボケ! それで……まぁ、結果は報告するとしても、現場の状況確認に一々付き合ってやる必要はないでしょ」


「比較的に規模は小さかったとは言え、変異種が要因のスタンピードでしたからね。軍にも要請をかけたかもしれません。迷宮対応部隊、古巣ですよね?」


「ああ……一応ね。ヤツらが来たら面倒だな。それより、本当にいいの? 変異種のコレ」


青いオーガが残した魔石と角、そしてオリハルコンの延べ棒。

一財産であるコレを俺個人の取り分であると、工藤は主張して引かなかった。


「それは鰻犬さんの物ですよ。我々としては、あの大量のドロップだけでも多すぎるくらいです。それに、彼らの身の安全の為にもね」


身の丈に合わない物を持ってると、ろくな事はないと言いたいらしい。

まぁ、くれると言うならもらっておくけど。


今回の氾濫ほ、小規模といってもドロップした魔石だけでも三百はゆうに超えている。

持ち帰るのにも一苦労の量である。報酬はかなりの額が期待できるだろう。

メンバー達はそれで十分なんだと。

工藤の方針に異を唱える者はいないらしい。


「あのポンコツにまで配分しなくてもいいのに」


ブツブツ言いながら魔石を集めてる宮田を指すと、工藤は半笑いで答えた。


「彼……、宮田君も頑張ってくれましたから。あれでまだ、探索者として一月というのだから驚きますよ。どんな訓練したら、あそこまでなったんです?」


そんな工藤の質問に、休憩中のメンバーも興味ぶかげな表情をしていた。


「地獄のブートキャンプをちょいとね? まぁ、普通なら廃人になるレベルの特訓を一週間ほど。初日は迷宮の観光案内。その次に、三日間ぶっ続けで魔物を相手に寝る暇もない程の戦闘訓練。これは徐々に階層を下げていくの。まぁ、ヒールで強制的に回復しながらだから、どんなにクソ雑魚でも死にはしない。残りは、武器も物資もない状況にして、下層部からの脱出訓練かな」


「……宮田君。私、彼を見直しました……。よく正気を保てましたねぇ、それ」


「まぁ、馬鹿だから。一週間でそこそこまで鍛えるとか、社長命令じゃなきゃ俺もやらないよ」


ドン引きするメンバー達が、可哀想なやつを見るような目で宮田を手伝い始めた。

大変だったのは俺の方だと思うんだが?



魔石や多種多様なドロップ品を回収し、持って帰る物を選別して各自の小型バックパックやポーチに詰め込んでいく。


「収納スキルかマジックバッグがあれば全部持って帰れるんだけどな」


「今日は、こんなに魔物を討伐する予定ありませんでしたからね」


半笑いで「会社に申請しとけば良かったな」と工藤が美咲ちゃんと話していると、遠くで犬の鳴き声が聞こえた。


「今、なんか聞こえなかったっすか?」


全員が警戒を一段上げる。


この迷宮には犬や狼型の魔物はいないはず。

近づいてくる鳴き声に緊張するメンバー達。


鳴き声の聞こえてくる方向に集中していたヘッドホン女子が告げる。


「四つ脚、単騎、来ます!」


登り階段のある方向から姿を見せたシルエットはおそらく犬。


「い、犬? 速い!? 見えない!」

「え? き、消えた! 」

「どこ!? どこに行ったの!?」


メンバー達から聞こえる動揺と困惑した声。

見えたと思った瞬間に、急に姿が消えたんじゃそれも仕方ない。


「落ち着け、別に速くて見えないわけじゃないから……オワッ!」


そう言った瞬間に、俺のすぐ横の影から獣が勢いよく飛びかかってきた。


それをなんとか受け止めたものの、不意の方向からかつ勢いが強すぎたのもあって、獣に押し倒されてしまった。


「先輩!」

「鰻犬さん!?」


急に現れて俺に襲いかかってきた獣に驚きながらも、武器を構えるメンバー達。


「うげっ! うぇっ、やっプフっ、やめ、ブヘッやメろ」


容赦なく俺の顔面を蹂躙する獣を押さえつけると、メンバー達に大丈夫だとつげる。


「ヨシヨシ。もう、いい子だから暴れるな。落ち着け、ステイだ。大人しくしろチハ」


襲いかかるように飛びかかってきた犬を撫で回して落ち着かせ、メンバーに武器をおろさせる。


コイツが来たって事は、アイツらがきたのか……。


「あぁ、コイツ、元戦友のチハヤ号。魔物でも敵でもないから安心しろ」


迷宮対応部隊の特殊チームにいた軍用犬である。

チハと会うのは久しぶりだったが、魔力の波長と影魔法スキルで間違いようもなかった。

俺はハンドラーではなかったが、部下の相棒として、またチームの一員として家族のような存在だった。


「チハはベテランの探索犬だからな、宮田の10倍は強くて頼りになる。知能も宮田のおよそ3倍は高い」


「いくらレベル高くても、知能は俺の方が高いでしょ!?」

「フンッ」 


宮田の抗議にチハは鼻で笑って応える。

余裕のある犬さんの姿に、女子達も笑顔で警戒を解いた。


「か、可愛くねっすねー!」


「黙れ下等生物。チハタンは美人さんだもんねー?」


そう言ってワシャワシャとなでる俺の顔を舐めて応えてくるチハヤ号は、シェパード系の犬種でありキリッとした美形である。別に可愛い系ではない。

今風に言えば、クーデレ系というやつだ。


「集団来ますね」


ヘッドホン女子が接近する足音を探知すると、しばらくして姿を見せたのは、濃紺の戦闘服に身を包んだ集団であった。

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