第19話 ヒーローは、ままならない
「青いオーガかぁ〜。二度目だな、多分」
まぁ、似てるけどよくよく見ると色々と違うのかもしれんな。俺にはわからんが。
倒した魔物なんか一々細かく覚えてないしな。
「一度目に私を助けてくれた時の元凶が、青色でしたね」
両手に手斧を掴んで近寄ってきた工藤が言うには、以前ヤツを助けた時のスタンピードの元凶が青いオーガだったっぽい。
オーガの硬い皮膚を手斧で軽々と切り裂き、頭をカチ割りながら工藤は言う。
「あの時のオーガは確か、角が二本でしたよ」
よく見ると、今回の青オーガには角が一本しかないように見える。
「ま、角なんてどうせ飾りだろ? 元凶と分かればさっさと潰しておくにかぎるな。つうか、なんで前に出てきたの?」
「前回のヤツには、まるで歯が立ちませんでしたけど、今の私ならそれなりにお役に立てるようになった事を証明できるかと思いまして。後ろは美咲にまかせました」
そう言うと、魔力を両手の手斧と全身に纏わせる工藤。
その魔力を纏うスピードも、魔力の流れの無駄のなさも、流石一流の探索者と言っていい。
「おっ、やる気じゃん?伊藤さん、一丁いっとく?」
「イエ! この男、工藤!
じゃあ、なら何でわざわざ前に出てきたん? コイツ。
「しかし、ッセイ! 露払いくらいは! フン! させてぇ! 下ぁ、さい!」
ハイオーガ4匹を一気に蹴散らしながらそう言うと、工藤はオーガの群へと踊り出た。
後ろを確認すると、少し離れたメンバー達の熱い眼差しが工藤に集まっていた。ような気がする。
特に女子達に。そう、もっといえば美咲ちゃんに良いカッコしたい俺は複雑な思いだ。
工藤はイケメンで嫌いだけど、男の俺からしても気持ちの良い男ではある。正直、そんなヤツから尊敬されるのも悪い気はしない。
イケメンは嫌いだけど。
しかし、しかしだ。
イケメンのクセにこれ以上カッコいいとこを見せて、俺に回ってくるであろう女子を減らすことは断じて許さない。
美咲ちゃんにいいカッコするのは俺だけでいい。
大将首の青いオーガを討ち取る。
それも、圧倒的な感じで且つ、スタイリッシュに。
魔力での身体強化をさらに数段上げる。
纏う魔力は既に、遠目からでも可視化できるまでに濃密に膨らんでいる。
「消し……飛べやぁっ!!」
踏み込み、腰の捻りから肩、肘、手首と全身を連動させ、最大に力を乗せたバールを投擲。工藤の頭のすぐ横をかすめるように、音速を超えて飛んでいった。
着弾と共に轟音を撒き散らすバール。
「ちょっと!先輩ゴリラ!危ないじゃないっすか!工藤さんに当たったらどうするんすか!」
「当たるわけねぇだろ」
後ろからアホの批難が聞こえるが、無視だ。
あと、誰がゴリラじゃ。アイツはあとでぶっ殺そう。
射線上にいたオーガ達は血煙になったが、工藤は勿論無事だ。
「さ、流石です……。ちょ、ちょっと、ヒヤッとしましたけどね」
「流石でもないみたいだぜ? 悪運強いヤツだなアイツ」
狙った変異種のオーガはいまだ健在。
いや、右腕は吹き飛んだか。
バールが奴の持っていたバトルアックスに当たって軌道がズレたみたいだ。
捻れてひん曲がったバールと、ひしゃげたバトルアックスがオーガ達の後ろの壁にめり込んでる。
「クソ〜!割と本気出したのに!一撃で仕留めてドヤろうと思ったのに!」
まだ"加護"の能力を解放してないとはいえ、本気だして失敗するとか、ちょっと恥ずかしい。
「何か、再生してません? あの腕」
後藤が指差した変異種の右腕が、蠢きながらゆっくりと再生していた。
「そりゃ、再生くらいするだろ?腕くらい。オーガだし」
俺だってそれくらいできるし、治癒魔法も併用すればもっと早い。
「オーガって再生しませんよね?」
「
「イヤ、ちょっとその領域まではまだ……。自分、前より強くなったつもりでしたが、まだまだですね」
まぁ、
協会のS級と呼ばれている連中とか、軍の『特級』とかな。
A級にはまだちょっと、荷が勝ちすぎている。
「まぁ、実力はあるんだし。そう卑下しなさんな」
事実、工藤は数多いる探索者の中でも上澄み中の上澄みであるA級であり、その中でも実力は高い方だと思う。
「まだまだこれからでしょ?」
ちょっとだけ励ましてやる。
「……そうですね。まずは、目の前の片付けましょうか」
「そうだな。とっとと帰って飯食おう。腹減った」
「フフッ。用意してますよ、豪華迷宮グルメ。行きます!」
およそ人間らしからぬスピードで駆け出した工藤が、変異種の取り巻きに襲いかかる。
バール攻撃でズタズタにされ、変異種のもっていたバトルアックスとの衝突に巻き込まれたオーガ達はこれに反応できてない。
狩る側から狩られる側へと逆転した意識は、オーガ達を混乱させているようだ。
今更危機感を覚えてももう遅い。
肩から吹き飛んでいた変異種の腕は、ようやく上腕を再生したところである。
「のんびり再生してんじゃねーよっ!」
バールの投擲で変異種の前は開けている。その穴に工藤が飛び込みさらに穴を広げ、そこを通り抜けるように変異種に肉薄すると、渾身の腹パンをお見舞いした。
「これも耐えるのかぁ。腹に穴開けたろう思ったのに」
吹き飛んで壁に叩きつけられた変異種は、フラフラと肩で息をしながらも、憎悪のこもった眼でこちらを睨みつけていた。
「たかだか変異種ごときが、鬼種最上位である鬼神様に対して頭が高いんだよ! オラ!」
追撃するように変異種に襲いかかると、顔面を鷲掴みにして地面叩きつける。何度も何度も。
「たけぇたけぇたけぇ! 頭がぁ、たけぇんだよ!」
有り余った魔力に任せて何度も何度も掴み上げた頭を叩きつけていると、必死に抵抗しようと俺の腕を掴んでいた変異種の左手から徐々に力が抜けていった。
「鰻犬さん、もう死んだみたいです」
回りの魔物は蹴散らしたのか、俺の肩に手を置きながらそう言う工藤の言葉に、ほとんど原型のなくなったグチャグチャの頭部から手を離した。
「フーッ……まっ、大した事なかったな」
久しぶりのスタンピードとか変異種の登場で気が昂っちゃって、最後ちょっとだけ"鬼神スイッチ"入っちゃったけど、概ね完璧だったのでは?
"一人、危険な魔物に立ち向かうヒーロー"
ちゃんと演出できたのでは?
もうこの際、工藤の存在は無視してもいいだろう。
コレは決まった。今夜は美咲ちゃんとベッドインあるぜ。なんなら他の女子達と俺の取り合いのイベントすら発生するまであると思う。
そう思い、無駄にキメ顔でメンバー達を振り返ると、もれなく全員がドン引きしていた。
「え、なんでぇ!?」
「むしろ、コッチが何で?っすよ。なんでそんな無駄に爽やかなキメ顔でコッチ見るんすか?コワ!」
イヤイヤ、男どもはどうでもいいけど、女子にはキャーキャー言われてしかるべきだろ!
それを「そんな大した事してませんよ」みたいな顔で苦笑いで応じる俺……までが一連の流れでしょ!
カメラ向けたまま固まってる大学生男子りゅうじ君は完全にビビって震えてる。そのカメラ、手振れ補正とか大丈夫?
虚弱男子は腰を抜かして、俺と目が合った瞬間に気を失った。
オッサン二人組はなんとか愛想笑いを返してきた。
女子に至っては目も合わせようとしない。
いや、もしかしたら俺の活躍に惚れてしまった彼女らは、恥ずかしくてコッチを見れないのかも。
あり得る。
俺がかっこよすぎて目も合わせらんないってやつね。
「ワンチャンあるな」
「先輩のそうゆー無駄にポジティブなとこ、尊敬するっす」
どうやら、ワンチャンはなかったようだ。
「いや本当に、さすがは鬼神。『陸軍最凶』の男の名は伊達じゃありませんね。ハハハ」
「ハハハ」じゃねーよ。コイツはなんだってこう、人の黒歴史をほじくり返してくるのだろうか。それ、絶対褒めてないよね?
誤射を装って、オーガと一緒にバールストライク(今、命名した)で血煙に変えとけばよかった。
どう見ても今日のヒーローは、俺だろう?
メンバーの反応に、ちょと納得いかない俺であった。
────────────
この作品初レヴュー頂きました。ありがとうございます!
皆さんも楽しんで頂けてるでしょうか?
面白いと思ったら星下さいねー。
レヴューも下さいねー。
ヤル気スイッチ押して下さいねー。
あ、誤字脱字の報告もよろしくお願いします。
副業探索者はままならない 風呂太郎 @oinarikoujou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。副業探索者はままならないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます