第18話 刀を振り回すのも、ままならない

ノッシノッシとゴブリンやオークを押し退けて、オーガの群が俺達の方に歩いて来る。


メンバーの様子を見るに、工藤や美咲ちゃん、宮田を除いてほとんどが戦意を失いかけてた。

もう魔力も残り少なく、オーガの群を相手に二丁の小銃だけで削り切るのは流石に無理。


「宮田ぁ。必殺技もう一発行っとく?」


「先輩。俺を殺す気っすか?」


流石の宮田でも、オーガの群を相手に人間砲弾になる気は無いらしい。小賢しい。


こんな時、軍の火力が恋しくなる。一人乗りの小型戦車や重火器を装備したパワードスーツなんかがあれば、もっと楽だったのに。


「仕方ない。加藤さん、後ろを頼むわ。大丈夫でょ?」


「あ、ハイ、工藤ですけど、頼まれました。ご心配なく。"鬼神"の背中ほど安心できる場所、そうは無いですよ」


イケメン工藤のセリフに思うところはあるが、まぁ安心できると言うのなら文句も言えまい。

軍人時代の二つ名。

由来は、"鬼神"の加護ギフト

俺にかけられた呪いのような物だ。


世の中には加護持ちギフテッドと呼ばれる強力な力を持った連中がいる。技能持ちスキルホルダーとは別格の力を有する。

スキルとは違って、どんな条件で能力が発現するのか解っていない。一つだけ確かになっているのは加護持ちのほとんどの人間は、迷宮内での死闘を経験しているという事。

それも、一度二度の経験ではなく何度も繰り返している連中に多く見られる。


俺の親父が言うには、「迷宮に認められて、愛された者のみが加護を授かる」って事らしい。


俺に言わしてみりゃ呪われた力のようなもんだ。

なんせこの"鬼神"の加護、なぜか魔法が飛ばないんだぜ?

魔法は使える。発動はする。でも飛んでいかない。

ファイヤーボールを使っても手の平から離れていかない。

俺の使える全て魔法の射程は、ほぼゼロ距離と言っていい。

何が「迷宮に愛された」だ。ゼロ距離魔法使いとかメチャクチャ恥ずいだけじゃねーか!


その代わりに、肉体強度は化け物じみたレベルまで跳ね上がり、自己再生能力・魔力回復能力も人間からは完全に逸脱している。

まぁ、能力解放した時の"鬼神化"は、特撮ヒーローみたいでちょっとだけカッコイイ。


まぁ、そんな恥ずかしいけど強力な力でどうにかしてやろうじゃないか。


そう決めた瞬間に、魔力を纏って身体強化と防御力を上げてオーガの群に突貫。

前列ど真ん中のオーガを大振りのフックで後続を巻き込ませながら吹き飛ばし、すぐ横でまるで反応できなかったやつの頭を掌底でかち上げる。

更に、回し蹴りからの後ろ蹴り、胴回し蹴りの連続技で近くのオーガ達を吹き飛ばしていく。


直接打撃を与えたオーガには特別に練った魔力を体内にプレゼントしてるので一撃で仕留められてるが、巻き込まれて吹き飛んだオーガは未だ健在。

憤怒の顔をこちらに向けて立ち上がっている。


「これだから嫌いなんだよ、タフな魔物は。宮田ぁ! 刀貸せ!」


「コレ、高かったんすから! 壊さないでくださいよ!」


渋々といった感じで刀を投げてきた宮田に礼を言う。


「ケチ臭え事言うな。どうせパパから買って貰ったんだろ?」


「ソレは自前で買いましたぁ〜。社割使ってぇ〜」


宮田製作所ウチの微妙な人気を誇る『軍刀』シリーズのフラッグシップモデル。


「やっぱパパの力じゃねーか」


キーキー騒ぐ宮田を無視して、背中を見せていた俺へと襲いかかってきたオーガ達に振り向きざまの抜刀を頂戴してやる。

一息に三匹。胴、袈裟・逆袈裟で一太刀ずつ。


「オラオラ、呆っとしてしてんなよっ!」


すかさず後ろで突っ立っていたオーガに対して、飛び込みながら振り下ろしで真っ二つにして蹴り飛ばす。

手斧を振り下ろそうと同時に襲ってきた二匹の喉に二連突きをお見舞い。膝を着いて蹲った首を刎ねた。


「ちょっと先輩! 本当に折らないで下さいよ!」


うるさい奴だ。普通は俺の心配だろ? 刀なんかより。

まぁ、この量のオーガ相手だとさすがに普通の状態じゃ折れちゃうかもな。

しかし、俺様の凄いとこ、見せちゃうぜ?

美咲ちゃん達女子には良いかっこしたいし?


『軍刀』にも魔力を纏わせると、切れ味と耐久性を上げて回転数を上げていく。

高速で刀を振り回し、近寄るを機にオーガ達をなますにしていく。


オーガの上位種が混じるようになってきた段階で、魔力で強化していた刀にも限界がきたようで……。

振った刀がオーガファイターの頭に当たると同時に、「パキーン!」と綺麗な音とともに折れてしまった。


「すまん、宮田! 適当に振り回し過ぎた!」

「うわぁー!あんた! 絶対わざとだろ!」


刀はちゃんと振らないと駄目な武器である。

だからというか、そもそも俺は、あまり刀は得意じゃない。

そんな得意じゃない奴に貸した奴が悪い。

そう、だから俺は悪くない。大丈夫。問題ない。


「やっぱコレだねー。ヒライズミ製のバール」


「最初からそれ使えば良かったじゃんね!」


頑丈とはいえ、エントリーモデル。念の為に魔力で強化。撲殺が捗る。何も考えずに振り回してるだけで脅威となる。魔力が乗ってれば尚更だ。


幼少期から使い倒してきた、この便利な魔力という力。

もう、なんの疑問も持たずに使ってきた俺でもたまに思う。

『マンコヴィッチ素粒子』って命名した奴は天才じゃね?と。


そんな事を考えながらオーガを虐殺してしていると、一際強力な魔力を感知した。


「鰻犬さん! 変異種ユニークです! 多分あれが原因だと思います!」


工藤の呼びかけに群の奥を見ると、一体だけ体の色が他とは異なる個体を発見した。


通常、オーガは赤褐色とか赤銅色をしている。

強い個体ほど赤が強く出てくるようで、上位種ほど鮮明に赤くなっていくのだが、その変異種は青。

身体つきは一回り小さいものの、藍色に近いその体色は上位種のオーガ達に囲われて尚、一際異彩を放っていた。

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