第17話 サステナブルは、ままならない
「やっぱり、ちょっと手数が足りませんね」
迫り来る中層の魔物達に、それなりに打撃を与える事ができてはいるが、所詮は拳銃。例え9丁揃えたところで、セミオートで装弾数も多くない20式では大群を押し返すには火力が足りない。
魔物の大群は、ゴブリンの上位種に偶にオークが混ざっている程度な為、今は押し留めてはいるが。
「仕方ないか……。美咲、あれ使うぞ」
工藤が残念そうにそう言うと、自身が背負っているバックパックの右下に垂れていたベルトを引き抜いた。
「おおーう!小銃?何そのギミック!須藤のトコの商品?」
工藤がベルトを引き抜くと同時にバックパックの下部からハンドガードと機関部の境目で半分に折りたたまれたアサルトライフルが登場。折りたたまれた状態から展開し、結合部にあるレバーで固定したら出来上がり。
組み立てメッチャ早い。AR15系かな?
「あ、工藤です。私としては20式を蔑ろにするようで不本意ではありますが。一応、実戦テストって事で商品部の連中に持たされてしまって」
「いや、普通に使えよ。最初から……」
残ったバックパックの左下からはマガジンの下側がピョコンと飛び出していて、引き抜くと次のマガジンが同じくピョコンと飛び出していた。
「何ソレ!弾倉の交換ユニット的な?」
「右手じゃ抜けないというデメリットはありますが、慣れれば早いですね」
「右手じゃ抜けないとか、下ネタか!」
「?? ……あぁ、そういう事ですか!それはそうと、コレ使います?」
ああ!なんだ?イケメンだと、右手とはご無沙汰で理解しにくい下ネタと言いたいのかコノヤロウ!
彼女にフラれて最近はもっぱら右手が恋人の俺に対する嫌味かよ!
「先輩……。ドンマイ」
「黙れ、しばき倒すぞ」
イケメンの工藤にはイラつくが、正直言ってこの装備はカッコ良い。装備だけはな。え?貸してくれんの?マジ?ちょっとだけいい奴じゃん?
「しかし、俺にもとっておきの飛び道具がある!」
「え、まさか先輩!?」
学校に出向する前に、宮田父(社長)と、宮田兄(営業部部長)たっての希望で、宮田をそれなりに安全に潜れるようにと鍛える事になった。
サラリーマンの俺が、上層部の圧力とちょっとした報酬の誘惑に勝てるはずもなく、「死ななければ後は任せる」との言質をいただき、一週間の『地獄の迷宮サバイバル訓練(パワーレベリングもついでにね)』を行った。
その訓練中、どおしても「必殺技が欲しい」と駄々をこねた宮田に根負けした俺は、大した実力もない宮田をどうにか使って技を完成させた。
「みぃ〜や〜たぁ〜〜っ!」
「せぇ〜んぱぁ〜〜〜い!」
「「てーれっててーれっててっててー!」」
「ちょっと撃ち方やめて退いてろ」と全員を下がらせて、刀を抜刀した宮田を豪快にジャイアントスイングし、俺達の奇行にギョッとして足が鈍くなった魔物達の群に思いっきり投げ込んだ。
「宮田スーパーローリングスペシャルハリケーン!」
「あーれぇぇぇ〜〜っ!」
絶叫と共に一直線に投げ出された宮田は砲弾と化し、振り回した刀で範囲攻撃を行いながら群れを割くように飛んでいった。
「見た?ウチの飛び道具。まぁまぁ凄くない?」
「流石、やりますねぇ!宮田製作所!」
「……え、マジですか……?」「うわぁ……」
効果はまぁまぁあったと思うが、工藤以外は微妙な反応だった。
「あの、彼、大丈夫なんですか?」
「さ、さすがにアレはヒドイんじゃ……」
宮田が飛んで行った方向を指して、美咲ちゃんとヒカルちゃんが心配そうに且つ、俺を非難がましい目つきで訴えてきた。
「だ、大丈夫!大丈夫! あっ、ホラ!アレ自動帰還システム搭載だから。勝手に戻ってくるよ?まぁ、なんて言うか俺ってサステナブルじゃん?」
「「ソコぉー!? 」」
「ちょっとマジヤバイってヒカルちゃん」
大学生男子は謎にビビってる。
「え?(意識高い系装ったのバレた?)」
多分、持続可能でない攻撃方法を良しとしない意識高めであろう二人に言い訳をしてると、混乱した魔物達の足下をゴキブリのような手足の素早さで、カサカサとコチラに戻って来る宮田を発見した。
「ヒィッ!」と、美咲ちゃんが四つん這いで這い寄る気味の悪い宮田に向けた銃口を仕方なく右手で掴むと魔物の方に向け直して言った。
「気色悪いけど、アレ、味方だから撃たないように。なるべくアイツの上を狙って、射撃開始!」
全員が我に帰り射撃を再会すると、宮田は自分の頭上をかすめ飛ぶ銃弾に悲鳴を上げながら戻ってきた。
「先輩でしょ!!俺の頭のギリギリを狙ってたの!」
工藤から借りた小銃をフルオートで、宮田の頭ギリギリを掠めるように撃ってたのがバレた。
「大丈夫、訓練では一回も当てた事ないからな」
軍事訓練では、実弾を撃ちまくる敵役の教官をやった事もある。
実弾に慣れてない(撃たれてる側)と、実戦では固くなって動けない人間は割と多い。
絶対に当たらないと思っていてもだ。
頭上を飛んでくる銃弾の恐怖を克服し、前進するのは割と度胸がいるもんである。
「まぁ、馬鹿のくせに……いや、馬鹿だから無駄に肝が座ってるのはお前の長所だ。後、無駄に目が早いとこな」
「えっ?そっすか?いや、まぁ、そんな急に褒められるとなんか照れ臭いっす」
「他には特に褒めるとこもないけどな」
「先輩、そんな照れなくてもいいっすよ?」
馬鹿は放置して射撃を続け、弾倉が空になったら工藤のバックパックから新しいのを引き出して装填。
カービンでもさほど広くない迷宮なら射程を気にする事もなく、フルオートのおかげで少しだけ魔物の群を後退させる事が出来ている。
戦闘開始から結構な数の魔物を討伐してきたが、そろそろ工藤と美咲ちゃん以外のメンバーの魔力が尽きそうだ。まぁしかし、工藤達のバックパックの残りの弾倉があれば、浅層のポータルまでなら楽に後退できるんじゃね?とか思っていが……。
「ま、マズイです……、お、奥の方、多分、お、おおお、オーガが混ざってきてます!」
ヘッドホン女子(名前忘れた)が、魔道具のヘッドホン型音探装置で新手を感知した。
「ゲッ!マジかよー、メンドクセェなぁ」
オーガはこの歌舞伎町ダンジョンの中層中部のボスとして、また中層最下部の通常に出現する魔物として分布している。
ゴブリンやオークなどから格段に跳ね上がったパワーとタフネスとスピードで、調子に乗った探索者を屠る憎い奴。
魔法などを使って来ないのだけはマシかな?
「中層下部より下が発生源だったみたいですね」
魔物の氾濫、スタンピード、迷宮災害などと言われる現象の発生理由や規模はマチマチであるし、全てが解明されてる訳ではない。
発生場所にも割と規模が左右される。
深層になればなるほど、魔物の数も強さも大きくなる。
俺達が探索前に確認した迷宮情報では、魔素濃度の異常などは観測されていなかった。
だから俺達は、この魔物の異常発生も大した規模ではないと判断していた。せいぜいは中層浅い所で突発的な小規模な氾濫だろうと。
まぁ、小規模だろうと一部の上級探索者以外にとっては、十二分に脅威であるのだが。
足手纏いがいるとはいえ、探索者協会のライセンス等級がA級の工藤とB級の美咲ちゃんがいれば問題ないと踏んでいた。
「き、来ます……。あ、あぁ……」
そんなヘッドホン女子の力無い呟きとともに、混乱し弾幕に押し返されているゴブリン上位種やオーク種の群を押し除けるように、オーガ達が顔を出した。
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お久しぶりです。
久しぶりにリハビリがてら書いたので投稿します。
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