第16話 アクシデントは、ままならない

浅層最後のボス部屋にいたオーク2匹をバールで滅多打ちして撲殺した俺達は、ダンジョン中層を前に休憩を挟む事にした。


「バールって、オークを撲殺できるんですね……」


「イヤイヤ、コレれっきとした武器だからね」


陽キャ女子の質問に答える。

バールのような物は探索者用の武器である。多分、普通の鉱石に魔石を配合したとかなんとか。ランクが上がればダンジョン産の鉱石を使用する割合が高くなってるらしい。よく知らんけど。


「へ、へー……。さっきの戦闘シーンの動画、使ってもいいですか?」


顔さえ写さなければ問題ないと答えておく。


「リュウジ君、ちゃんと撮れてるよね?」

「あ?あぁ、後で顔は加工すればいいだろう……」


態度の余り良くない大学生男子リュウジ君は、陽キャ女子ヒカルちゃんの態度に苛立ったご様子。

ジェラシーってやつ?


さっきのオーク戦の様子が、『ヒカル・リュウジちゃんねる』とかいう、まんまな動画配信で微妙な人気を誇る彼らの動画に使われるらしい。

特に何の見せ場もない戦闘に需要があるのか疑問もあるが、別に減るもんでもないし女子の頼みを無碍にはできないので許可した。



「ここからは中層だ。皆んな気を引き締めて行こう! 鰻犬さん、よろしくお願いします」


このメンバーでは、中層には何度か潜っているらしく、油断しなければ攻略手前までは大丈夫との事だった。

事前に約束していた通りに、ここからは銃を使って進むよう工藤にお願いされた。


「皆んな、よく見ておくように」


中層に降りて直ぐに出会い頭に魔物と接触。ゴブリンファイターが三匹。

半身で腹から拳銃を素早く抜くと、狙いもせずにそのまま腹の前で先頭のゴブリンファイターに速射で二発を撃ち込み、角度をつけてもう一発。

まずは、一匹の腹と胸と頭に穴を空けた。


すかさず胸の高さに構えると立て続けに二匹のゴブリンファイターに二発ずつ胴体に撃ち込み、倒れた二匹に近づくと、頭部に一発ずつ止めを刺して終了。

魔力を装填して胸の前に寝かせたままで保持する。


「まぁ、こんな感じ。CQCにおいては、こういう撃ち方もあるよって事で……って、アレ?もしかして、今一だった?」


今回の探索では、20式を使った戦闘技術をメンバーに見せて欲しいと工藤に言われて、その通りにやってみせたのだが……。


「反応薄っすぅ……」


ただ呆然と立ち尽くすメンバー達。

もしかして、やっちゃった?ダメな方向で。

え、マジで?探索者学校でもコレができてるヤツはいなかったので、意外と生徒たちから持て囃されて良い気分になったのに。


「なんだよ、こんなもん?」「期待外れもいいとこだわ!」「これくらいなら、俺たちでもできるんだが?」

口には出さないが、そういう事だろうか?

マニアは意外と行動力あるからな。どっかで軍事訓練なんかを受けてたりするのかもしれん。


「ちょっと近藤さん、大丈夫?こんな感じで。俺が教えられる事そんなに無いんじゃね?」


「あ、工藤です。イヤイヤ全然、全然大丈夫ですよ!皆んなちょっとビックリしただけだと思います。思ったよりレベル高くて」


本当かよ。コイツ、無駄に俺を持ち上げるから、イマイチ信用ならん。


「そ、それじゃあ、次行きますね……」


これだからマニアとかオタクは嫌いなんだよ。

思いの外、求められる技術の高さに動揺しながらも獲物を探し始める。


最短ルートを通ったのが悪かったのか、魔物と余り遭遇しない。

先行してる探索者とルートが被ったのかも。


銃を胸の前で保持しつつも足早に進むが、それにしても後ろの連中の足音に気になる。


「あのさ、もうちょっと足音殺せない?」


コイツら、射撃技術だけは一丁前に訓練してるっぼいけど、こういう所はど素人丸出しである。

まぁ、射撃もまだ見た訳じゃないから、腕前は知らんけど。

ミリタリーマニアって言うより、ただのガンマニアなのか?それも20式専門の愛好者の。


「足運びも注意して。こう、ザッザッって感じじゃなくて、もっと静かにシュタッシュタッって感じ。分かる?」


コレにも反応が薄い連中だったが、ほんの気持ち、少しだけマシになった足音を聞きながら探索を進めると、後方から止まれの指示がでた。


「何か、来ます!大量です!」


ヘッドホン無気力風女子が今日一番の声を張る。

索敵系のスキルでも持ってるのだろうか、無気力風から一変してガクブル系に転向してしまった。


ルートの被った先行チームかどっかの馬鹿がトレインでもしてるのだろう。

まったく、はた迷惑な連中もいたもんだ。

規模によっては、マナー違反どころの騒ぎじゃすまないぞ?


工藤の判断を待つ間に、俺達にも遠くから聞こえる足音が迫ってきていた。


「遠藤さん。こうなったら、迎撃しましょうか?」

「そうですね。いざとなったら、私と鰻犬さんでメンバーを逃しましょうか。あ、あと、私、工藤です」


通路に横隊を敷いて先を見据えていると、通路の角から探索者のパーティが姿を見せた。


「オイっ!大群だ!逃げろっ!」


こちらに逃げるようにと、叫ぶ探索者。


「コッチだ!走れ!数は!?」


法的強制力など無いに等しいとはいえ、危機に陥った探索者同士の救助は努力義務とされている。


「すまない!規模はデカすぎてわからん!」


こりゃあ、ただのトレインなんかじゃ済まねぇかもな……。



横を通した探索者達の装備は、すでにボロボロになっている。

動けないほどの怪我人はいないのが、せめてもの救いだ。

横隊の後方で倒れ込んだ連中の息は荒い。


「多分……ス、スタンピードだと思う……」


逃げて来た探索者達のリーダーらしき男が、苦しそうにそう呟いた。


「来るぞ!射撃用意!」


工藤が指示を出すと、全員が20式を構えて息を飲んでいる。


「心配ない、いざとなったら逃げてもいいからな。一斉射後、各個に自由射撃!」


メンバーにそれだけ伝えると、前方の角から魔物が次々と姿を現した。


「撃てぇ!」


『ボシュッ』と抑えられた発射音が一斉に鳴ると、魔物達に穴を空けていった。


あぁ、復帰二回目の探索で早くもクソみたいなアクシデント引くとか……。

軽い感じで探索者なんぞはじめた自分の探索者ライフの先行きに、俺は一抹の不安を感じた。

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