第15話 方向性の違いは、ままならない
軽くミーティングを済ませると、『F・I』とデカデカとロゴがプリントされたプレキャリを着た俺を先頭にダンジョンへと入っていった。
同業他社のロゴ入り装備で探索ってどうなの?
なんか、会社にはすまん気持ちではいるのだがプライベートの探索だし、仲間からの誤射で負傷とか笑えないしな。
「イイっすね。その防弾チョッキ」
さすが宮田だ。気にしてもいない。
射撃の統制は工藤が指示するまで射撃禁止にしてはいるが、なんせダンジョン内である。咄嗟にパニくって発砲なんて事はありえる。
念の為、魔力防御を張ってるので拳銃くらいでは死にはしないだろうが、怪我くらいは普通にしそうだ。いや、怪我もしないかもしれんが、痛いのは間違いない。
「とりあえず、サクサク行く感じでいい?」
「中層まではお任せします。本格的な動画の撮影も中層からなんで」
工藤と大学生男子、メガネのサラリーマンのヘルメットにはウェアラブルカメラが取り付けられており、探索の様子を撮影している。
陽キャ女子と大学生男子は動画配信者らしく、探索動画配信者としてそこそこ人気があるらしい。
探索動画などまるで興味が無い俺は知らなかったが、宮田は見たことあると言っていた。
案件動画がどうのこうのなど言われても、俺にはサッパリ分からない。
サラリーマンとハゲオヤジは、どこぞの不動産会社の社長と部下の専務らしく、ハゲの勇姿をメガネが記録する係のようだ。
工藤もプライベート
配信者連中は、今回の動画は後ほど編集してアップすると言っていたが、俺と宮田の顔出しについては遠慮してもらう事にした。
早速小走りでダンジョンを進み始めたが、30分もしない内に後続が離れてきた。
「オイ、大丈夫か?そいつら、初心者じゃないんだろ?」
「まぁ、普段はダンジョンを走って移動してませんからね……。それより、その、なんて言うか、全然20式使いませんね……」
宮田を含み、工藤以外の連中は息切れしながら汗を拭っている。
「浅層なら銃はいらんだろ。むしろ遅くなるだけだ。さっさと行きたいんだろ? 中層に」
「え、ええまぁ……」
できればポータルで中層まで一っ飛びと行きたかったのだが、歌舞伎町ダンジョン初探索のメンバーが3人(宮田を含)ほどいたので、一階から順当に探索する事になった。
俺は兵士時代に超深層までは探索済みである。
ルートは工藤が最短でナビしながら、会敵した雑魚どもは全て俺が倒してるので、後ろの連中はついてくるだけなのだが。
出てきた魔物は、バール(のようなモノ)で鎧袖一触である。
さすがはヒライズミ製の『バールのようなモノ』シリーズ。エントリーモデルでも頑丈さは折り紙付きである。
「い、一応、この行程も動画で記録してるので、もうちょっとゆっくり進んでもらえると助かります」
まぁ、走るとブレるだろうしな。
そう言えば動画撮影してるんだったなと気づいて、俺もサービス精神で何かをした方が良いだろうと、バール(のようなモノ)を撮影メンバー達に向けて一言。
「"やっぱり頑丈、100匹ノシても超丈夫!"」
「先輩w それ、他社製品のCMwww」
宮田は笑いながら指摘してくるが、プライベートの
このシリーズは余り人気がないので、俄かではあるが愛用者の俺としてはもっと日の目を浴びてほしいとの思いもある。
「鰻犬さん、そこは自社製品をもっと推していきましょうよ」
と、工藤も呆れ気味の半笑いである。
「それは、中層にとっとく。それに、浅層とはいえここまでノンストップでこれたろ?バールのおかげだぞ?もっとバールに敬意を持て」
『ふたまる愛好会』にも、バール(のようなモノ)を使用している者はいない。
工藤とその後輩の美咲ちゃんは、手斧をバックパックの両サイドに2本、腰に大型ナイフを2本装備しているが、他の連中はナイフくらいがせいぜいで、宮田が"刀"を腰に差してる以外は近接戦闘を行うような装備の者はいなかった。
そんな連中は、バールを振り回す俺を「信じられない……」といった感じで見ている。
俺も20式に愛着を持つ人間の一人だが、コイツらみたいな
「あ、あのう、ソレ。本当にエントリーモデルなんですか?」
「おっ!君も興味あるん?コレ、いいよ〜?かなり雑に扱っても、まぁ壊れる心配ないからね!」
顔色の悪い病弱系男子は、質問に快く返答する俺に対して、何故か若干ヒキ気味である。
「そ、そもそも、バールって壊れる事中々ありませんよね? 武器として使ってる人も、今日初めて見ましたし……」
「まぁ、折れたり曲がったりはするよ? あ、でも大丈夫!中層までならまずコレが壊れるような魔物出ないから!」
パッと見、非力そうな彼だが、近接戦闘用のバールに興味があるのだろうか。
「それに、ホラこんな風にも……オラァッ!」
角から出てきたゴブリンに向けてバールを投擲すると、二匹のゴブリンの頭を爆砕させて壁にバールが突き刺さった。
「なっ?慣れたらこういう使い方もできるんだ。頑丈故にな。いいだろう?バール」
頑丈さと近接攻撃だけが売りのバールで、遠距離攻撃を行える事に驚いたのだろう。呆然とする『ふたまる愛好会』のメンバー達。
「か、壁……」
「心配ない。ダンジョンの壁や床は破壊しても自己修復機能があるから、その内治る」
「……や、そういう事じゃなくて……」
病弱系男子は何か呟いているが、気にする必要はない。バールが突き刺さった壁にできたちょっとしたクレーター位は、半日もあれば勝手に修復するから。
「さすが先輩、ゴリラっすね!」
「誰がシルバーバックだ!ドラミングすんぞコラ」
宮田と二人で笑ってると、ドン引きした『ふたまる愛好会』のメンバー達はヒソヒソと今の攻撃について話し合っていた。
メンバー達の顔色からすると、余りいい感情では無さそうだ。
もしかすると、ダンジョンの壁を破壊した事に対して非難してるのかもしれない。
「見た?今の?野蛮じゃない?」「壁を壊すなんて非常識だ」「バールを投げるなんて、バール使いにあるまじき行動だ」なんて言われてたりして。
参ったな。バールの良さをアピったつもりが、逆効果になってしまったかもしれない。
「う、鰻犬さん、そ、そろそろ先に進みましょうか?」
「そ、そうね」
イケメン工藤からの提案で気まずい雰囲気から逃れる僕。
さすが、エリート探索者。イケメンな所は嫌いだが、リーダーシップが発揮されるこんな時は頼もしい。
『ふたまる愛好会』のメンバー達は、割と上品な連中だと思ってたが、俺のような野生的探索スタイルとは合わないのかも。
何となくだが、ちょっとだけ、皆んながよそよそしくなった感じがする。
しかし俺達は、所詮は臨時で参加しただけだ。
『探索に対する方向性の違いでパーティを解散!』なんて事は良くある話しだし。
今回だって、俺は来たくて来たわけじゃない。
「もう、あの人とは探索したくない!」とか言われても特に何とも思わない。本当だ。
別に悲しくなんてないのだ。
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