第14話 装備のセンスも、ままならない
新宿駅の東口を出ると、広場には一般人に混じって探索者と思われる人間達が複数の集団を作っていた。
その中で一際目立つ男を見つけて、嫌々ながらも近寄っていく。
「おはようございます、江頭さん」
「あっ、工藤です。おはようございます、鰻犬さん」
「先輩遅いっす!先輩が最後っすよ」
8時と言われたから8時に来たのだが。来たくもないのに来ただけでも俺は偉いと思う。
だいたい、五分前行動なんてのも、日本の悪しき習慣である。
早く来て欲しいなら、その時間を指定すればいい。
「まぁまぁ、時間通りですし。皆さん、彼が私に20式の素晴らしさを教えてくれた、命の恩人鰻犬さんです!ハイ、拍手!」
パチパチと手を叩くイケメン工藤につられて拍手してくる男女7人。
「おぉぉ!」と目をキラキラさせてる女の子や、面倒臭そうに手を叩く大学生風の男子。笑顔の眼鏡サラリーマンにハゲオヤジ。
ヘッドホンを首にかけた無気力風女子と、顔色の悪い病弱系男子は完全にお愛想で手を叩いている。
そして、多分無理矢理連れてこられたであろう、工藤の後輩のキャリアウーマン美咲ちゃん。
普段はキャリアウーマン風のスーツである美咲ちゃんは、今日はドンキで売ってるような派手目なスウェットの上下に身を包んでいる。ギャップがエモい。
年齢や趣味趣向など、どう見ても共通点がある連中ではないのだが、一つだけあるとすればそれは、全員がガンケースを手にしてるって所だ。
「それじゃあ、全員揃った事だし移動しましょうか」
本日の予定である歌舞伎町ダンジョンは、かなりの深層ダンジョンであるが、立地的にも探索者の数が多く、中層までなら比較的安全に探索が可能である。
ダンジョンの入口横には探索者協会のビルが建っている。元は劇場があった場所であるが、20年近く前のダンジョン発生の後にこれを建て替えたらしい。
「どうせなら、協会ビルで待ち合わせしても良かったのに」と思っていたが、イケメン工藤が入って行ったのは協会の向かいにある雑居ビル。
そのビルの数フロアをフォース・インダストリー社が借りていると言う。
「協会よりも設備は充実してますから」
そう、はにかむように言う工藤の言葉通り、少し寂れた外観のビルとは思えないおシャンティな内装や最新設備の機材などなど。宿泊もできるし、医療設備も充実してる。
シャワー室どころか、浴場まで完備。食堂に専属の料理人などなどはいないが、キッチンを自分達で使えるらしいし、置いてある軽食や保存のきく食料は自由に食べていいらしい。
正直、ここに住みたい。
「やっぱ、金持ってんなー。FI社は」
「ウチとは比べもんにならないっすね……」
これが、大企業のマネーパワー。ただのダンジョン攻略用の施設であって、支社ですらないのだと言うから呆れるしかない。
工藤のおかげで、これらを利用できる『ふたまる愛好会』は贅沢がすぎる。
勿論、工藤と一緒じゃないと入れないし、フロアによっては完全に部外者お断りだ。
ダンジョンの攻略には、社外の人間も参加する場合が良くあるらしい。そんなわけで、俺達もそれにあやかれた。
「先輩……、本当にそれで行くんすか?」
更衣室で準備を整えた俺に、宮田は呆れた顔でそう言った。
「なんか問題あるのか?この間の合宿だってコレだったろ」
軍学校時代の紺色ジャージに背中にバール(のようなモノ)を背負い、今日は追加で魔導拳銃をズボンの腹に差し込んである。
「見た目が……」
「実力がヘボいくせに、格好だけ一丁前よりマシだろ」
何故か、周りで着替えていた愛好会の男性陣も絶句している。
「探索は格好でするもんじゃねーだろ?」
「程度ってもんがありますけどね?」
ダンジョンで出会いを求めてるわけでもあるまい?「フン」と鼻で笑うと、早々に支度を終えて食堂で皆んなを待つことにした。
無料なのをいい事に、籠に入った菓子をポリポリ食っていると、工藤が専用ルームから支度を終えて出てきて俺の向かいに座った。
「イヤー、流石鰻犬さん。歴戦の熟練者って感じですね」
工藤の事はイケメン故に好きになれないが、やはり分かるヤツには分かるらしい。
”強者は強者を知る”ってやつだ。
まぁ、俺ほどの実力者なら、装備なんぞ何でもいいのだ。
やれ、どこ製の武器だ。やれ、どんな素材の防具だ。なんぞと、装備にばかり気を遣っている奴等がいるが、そんな事より己を鍛えろと言いたい。
装備の強さに頼っているようじゃ、まだまだソイツは半人前だ。
装備に振り回されて、装備を使いこなす事が出来ない奴は簡単に死ぬ。
また、自慢の装備を過信し過ぎて死ぬ奴も多い。
まぁ、装備を軽視して死ぬ奴もいるが……
装備の製作・販売を行う企業に勤める俺が言うのもなんだが、だいたい探索者用の装備は高すぎるのだ!
それなりのグレードで全身の装備を整えようとすれば、大枚が吹き飛ぶ。
無理だ。俺には金がない。
しかし、実力はある。不本意だが、幼少期からの英才教育と軍での経験の賜物である。
「一応、防弾ベストだけでも着といた方がいいかもですね。念の為……」
備品のレンタルや応急用の予備の装備も充実してる。
愛好会のメンバーは一応免許も持っているし、ソコソコダンジョンの経験もあるらしいのだが……
「背中のプレート、二枚にしときますね」
どうやら、そういう事らしい……
イヤイヤ!大丈夫?そんな連中とパーティ組んで!
「念の為ですよ!念の為!多分、大丈夫ですから」
本格的な訓練を受けた軍人ほどではないが、彼らもそこそこはやるらしい。
それでも、軍人だって誤射が無いわけではないし、愛好家にそれ以上のスキルを求めるのは難しいか。
「俺、最後尾でお願いしたいのだが?」
「いやー、皆んなにも鰻犬さんの勇姿を見て欲しいので、ポイントマン、お願いします」
やはり、こんな所に来るんじゃなかった……
「基本的に、報酬の配分はポイントマンは高めにしています」
「なるほど、俺がやるしかないようだ」
そんな話しをしてる内にパラパラとメンバーが集まってきたが、女子3人が仲良く現れて俺を見た第一声が、「「「うわ!ダッサ!!」」」であった。
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