第12話 イケメンライバルは、ままならない 後編

「いやー、すいません。うちの後輩が。全く、気の利かない奴でして」


そっちのキャリアウーマンが気が利かないなら、ウチの後輩なんかもっと酷いと思うんだが。


「い、いやぁ、あのコッチこそなんかスイマセン」


なんか、ヤベー奴と知り合ってしまった感あるわ。

なんて事を思っていた俺だが、夜のお食事会に判明したのは、俺は彼にとっての命の恩人だったってオチであった。


場所は立川市の繁華街にある高級鮨屋の個室。イケメンが是非にと言って案内されたのが、この店なんだけど。

時価でお値段が載ってないお店にちょっと困惑していた俺だが、大企業のエリート様の奢りなので気にせず食べれる。


「先輩凄いじゃないっすか!あのフォース・インダストリーの有名探索者の命の恩人って!」


俺は全く覚えてなかったが、「一目で分かった」と言うイケメン工藤は、別に俺の尻の穴を狙っているわけではないとわかって一安心である。


軍のQRFに所属していた事もあって、魔物の氾濫の対応や救援・救助は日常茶飯事であった。


緊急即応部隊QRF』でパラレスキュー・ジャンパーPJの隊員をやっていたので、確かにあり得る話しだ。

狂った連中の中でも更に、特段に狂った奴らが集められた部隊の懐かしい記憶が蘇る。

そんな思い出に浸ろうとした俺を侮蔑の眼差しで見てるのが約1名。


「後方支援部隊って話しでしたよね?」


何故か一緒にお食事会に参加していた美人受付嬢から白い目で見られるが、それはある意味ご褒美でもある。


「衛生兵は後方支援部隊ですよ?」


嘘は言ってない。所属がちょっとだけ特殊なだけであって、兵科が後方支援なのは間違いない。

一戦部隊の後方で待機してる事が多い仕事なので、後方支援部隊と言っても過言ではない。はず。


「しかし、あれだけ戦える衛生兵など他に見た事ないですよ!彼はまさにヒーローです!」


「お前はいらん事を言うな」と目で合図するが、まったく気づかない。


そりゃ、パラジャンパーは障害の排除も任務の一環なので戦闘も多かったし、元より俺はレスキューより戦闘の方が得意ではあった。


「なんせ、私にヒールをかけながらオーガを殴り殺すんですから。そりゃもう驚きましたよ!」


こ、コイツは……

そんな、やさぐれてた頃もありました。

でも、そんな黒歴史くらい、誰にでもあると思うんです。一々人の過去を抉るのはやめていただきたい。


「私に、『一匹でも多く殺してから死ね』と言って腰の拳銃を渡してくれたんですけどね?それが20式との初めての出会いですよ」


なんか、普通に助けてくれた礼を言うとかなら分かるけど、普通に酷い人みたいな展開の話しになってる。

イケメンには悪意が無いだけにタチが悪い。


「私もなまじ実力があったり、周りからチヤホヤされて調子に乗ってたんでしょう。あんなピンチに陥って初めて気づいたんです。人は簡単に死ぬんだと。九死に一生を得るとはあの事でした」


ほろ酔いイケメンの饒舌は止まる事を知らない。


「さ、そんな話しはお終いにして、ソロソロ王様ゲームやんない?」


「あら、鰻犬さん、もっと貴方の昔の武勇伝を聞きましょうよ。ねぇ?本人は全然教えてくれないんだから」


良く分からんが、美人受付嬢のユイちゃんは笑顔であっても目が笑ってない。

良く分からんが、女のこういう時は“あまりいい状況ではない“と、俺は知ってる。


「そう、そして二度目に助けてもらったのは三年前──」

コイツ、二度も俺に助けられたのかよ!俺もこんなヤツ助けなきゃよかったのに。

つーか、そんなんでよく大企業の専属冒険者なんかやってるな!

本当にエリート探索者なの?


恥ずかしいやらなんやらで、コッソリ抜け出そうとした俺に腕を絡ませてきた受付嬢の目は冷ややかだが、胸の感触は控えめに言っても最高だった。



1日を挟んで、出向二日目。


「鰻犬さん、一昨日は失礼しました」


ぽんこつイケメンエリートの工藤が、酒の席での醜態を謝罪してきた。

どうやら、キャリアウーマン風後輩に散々と説教を食らったらしい。


「コレ、お詫びのしるしというか、あの時命を助けていただいたお礼です。受け取ってください」


イケメンが差し出してきたのは小型の樹脂製ガンケースである。

パカっと開くと見慣れた銃。そう、20式魔導拳銃である。それの軍用カスタム。


軍用カスタムといっても、装填数がちょっと多くて、アタッチメント取り付け用のレールが標準装備されてて、少しだけ発射速度が高いだけだが。

いや、それでもお値段は通常より二割り増しであり、中古であっても300万は下らない。

魔導銃は普通の銃より値段が高い。物によっては、数十倍は軽くする。


「イヤイヤイヤ、そんな高価なもん貰えませんよ!」


本当は超欲しいけど。


「コレは予備でほとんど使ってないので、鰻犬さんが使ってくれたら、そんな嬉しい事はありません」


えー、大丈夫?利益供与とかならない?

そんな関係性ではないから大丈夫だろうけど。


「後藤さんを助けたのは任務だったからで、お礼とかされる立場ではないんですがねぇ……」


「あ、です。それじゃ私の気が済まないのです。お願いです。私と一緒に20式の素晴らしさを世に広めて下さい!あの時、私を導いたように!」


別に俺にそんな意図はなかったはずだが?

後、変な宗教みたい言うのはやめて欲しい。周りの目が気になってしょうがない。


「まぁ、いいんじゃないっすか?もらえるモンはもらっておけば。先輩も一応は免許もってるんだし。金が無いだけで──イッターい!」


「金が無いのは余計だ」


ポカリと頭を小突くと大袈裟に痛がる宮田だったが、「先輩、ちょっとは手加減してくれないと。ここら辺は魔素が濃いんすよ!」と涙目で訴えてくる。

そう言えば忘れてた。魔素のせいで身体能力が上がってんだ。まぁ、宮田だし別にいいけど。


「是非!」と譲らないイケメンに、渋々といった風を装って、ありがたく頂く事にした。


変な宗教みたいであれだが、タダで魔導拳銃を手に入れる事ができた俺は幸運であろう。


「今週末に新宿駅ダンジョンで集まりがあるんですが、一緒にどうです?」


20式愛好家達の集まりでダンジョンに潜る事になってるらしい。


「へぇーイイっすね!そうゆーの!」


この馬鹿、一週間のブートキャンプでは物足りなかったのだろうか?それとも、俺に殺されたいのか?


「宮田君も良かったら一緒にどうぞ」

「ありっあっす!楽しみっすね!先輩!」


「オイ!」

今週末の予定を勝手に決められてしまった。

コイツはやっぱり迷宮に置いてくるんだった。


ちょっと勿体無いけどこの銃、返品していいかな?即日クーリングオフなので問題ないと思うんだけど。

そんで、イケメンとの関係性を白紙に戻してくれないかな?


この流れではもはや嫌とは言えず、「まぁ、1日だけなら」と了承はしたが……


やっぱり俺は、イケメンが嫌いだ。

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