第11話 イケメンライバルは、ままならない 中編
探索者の訓練において、一般的な環境下での訓練も重要であるのは確かであるが、より本格的で実践的な訓練は迷宮内であるのが望ましいのは明らかである。
そして、『地上と迷宮の一番の違いは何か?』と聞かれれば、皆がこう言うだろう。
『魔素の有無である』と。
しかし「魔素ってなんやねん!」と聞かれれば、返答に困る。
世界中の研究者や機関が必死になって解明しようとしているが、いまだによく分からないのがこの『魔素』である。
だから、一般的には『不思議な力の素となる物』と認識されている。
ちなみに、この魔素は素粒子であるとアメリカの科学者が発見して以来も、『魔素』もしくは『マ素』と表記される事がほとんどだ。
世界的な正式名称は『マンコビッチ素粒子』である。
1978年に東欧系アメリカ人の化学者イワン・マンコビッチが発見した。
日本では中々に呼称が難しく、公式な文書でも『マ素』と表記される。
学術的な文書では『マンコビッチ素粒子』が一般的に表記されてるらしいが、俺のような人間には一生縁のない話しだ。
まぁ、そんな魔素ではあるが、比較的魔素の濃い場所なら迷宮のすぐ近くであれば地上でもそれなりにある。
現在、主要な迷宮の側にはだいたい探索者協会の施設があったり、比較的穏やかな迷宮なら、この探索者学校のような教育機関が建ってたりする。
危険度の高い迷宮や採掘される資源等によっては、国や軍が厳重に管理しているが。
そんな東京の、西にしてはそこそこ都会である立川市の中心部にほど近いココも、迷宮活性地であり魔素が濃い場所が多くある。
というか、この学校は敷地内に迷宮があるので、訓練用地には事欠かない。
ウチの『20式魔導拳銃』を撃つ上で重要なのが、この魔素の有無だ。
普通の銃は弾を込めてそれを発射する。
一般的に従来の魔法銃もコレに近かった。
魔石と呼ばれる魔物から採れる物質を加工しコーティングした弾頭を撃ち出すのが主流だったからだ。
火薬の代わりに薬莢には砕いた魔石が詰められ、雷管部分の魔法陣を撃針が叩くと魔石の魔力と反応を起こして弾が撃ち出される。その為、銃本体の素材も、ダンジョンから採掘される鉱石で作られた特殊な合金で作られている。
最近は、20式のように射手の魔力を魔弾に変換して撃ち出すタイプの魔法銃が伸びている。
弾薬の携帯は収納の魔道具やスキルがないと結構邪魔になるし、弾代だって馬鹿にならない。それを解消したのが、このタイプの魔導銃だ。
もっとも、射手の魔力が切れたらそれでおしまいなんだが。
"魔力馬鹿"の俺とは相性がいい。
迷宮で発見された武器の中に、こういった使用者の魔力を攻撃魔法に変換して撃つ魔法杖をヒントに作られたのが始まりだったらしい。
一般的に旧タイプの魔導銃を『実弾型』、新しいタイプを『魔力型』と言う。
どちらも一長一短はある。
しかし、魔導銃は本体価格が高い。『魔力型』は特にだ。だから社員割引を利用しても今の俺には買えないのだ。
あと、魔力カートリッジ方式等も開発されてはいるが、現在の化学技術で小型化するのは中々難しいそうだ。
普通の銃でも魔物を倒す事はできるが、より強大な魔物を殺傷するにはかなり大変である。
迷宮の中に持ち込める範囲の火器に限定すれば、手持ちの限界はでてくる。
戦車や重砲を持ち込む事は出来ない。
それでも軍などは、マンパワーでゴリ押しできたりはするのだけれど。
魔物を殺す為に、より軽量で威力を高める為に試行錯誤して発見・開発されたのが、魔物や迷宮由来の成分で作られた武器なのはなんとも言い難い。
剣や槍といった武器はおろか銃弾に至るまで、迷宮で発見した物や迷宮産の資源や素材で作られた物の方がより効果的に魔物を倒せるのだ。
最大で300mの射撃が可能な地下の屋内射撃場は、魔素の濃度も充分である。これで魔力を使う事ができる。
「では、実際に撃ってみますね」
自前の魔力を銃に流し込み、グリップの中に溜め込まれる。満タンで最大7発が撃てる。
昨今の魔導拳銃と比べると装填数は少ないが、その分威力は高い。
「これで装填は完了です。セーフティーを外し、射撃可能となります。では」
10m先の標的にリズム良く撃ち込んでいく。
この手の魔導銃は、消音器等を付けなくても、ほとんど発砲音がしないのが地味に良いところだ。
弾は的のほぼ中心に7発がまとまっている。
宮田を鍛えるため、迷宮に一週間の泊まり込みを行なったおかげで、俺も昔の勘を取り戻してきた。
「ブラボー!さすが20式!」
先程のイケメンが、大袈裟に手を叩いて称賛してくる。
「鰻犬さん、やっぱり……凄いじゃないですか!」
何が「やっぱり」なのか分からないが、もうちょっと自社の製品を推してあげて?
10mならこれくらい当てる奴はそこそこはいるが、見ていた生徒達もそこそこ感心しているのが分かる。
やっぱり褒められると気持ちイイー!
宮田製作所の前に試射を行った企業は苦い顔である。
「戦闘射撃での信頼性は折り紙付きです!私も実戦では必ず携帯してますよ!発射速度は──」
何故か、イケメンがウチの商品をべた褒めアピールしている。しかも、宮田の商品説明より詳しく魅力的である。
「工藤さん……。なんか、すいません、うちの先輩が」
イケメンと同じ『フォース・インダストリー』の社員らしい女性が謝ってくる始末。
「いえ。なんか、コッチこそ宣伝してもらって、ありがとうございます。お礼に、今夜食事でもどうですか?」
いかにも仕事できそうなキャリアウーマン風の美人にはめっぽう弱い俺。
引き攣った笑顔で、「先輩と相談します」と返された。
あんなヤツは無視して、二人きりでと言いたいところだが、初めのきっかけとしては悪くないだろう。
「あの。先輩とは面識があるんですよね?」
キャリアウーマンが言うには、イケメンは俺の事を認識していたと言う。
「いえ、うーん、まるで記憶にないですね」
なんだろう。営業の宮田ならどっかで知り合うとかあり得る話しだが、基本、外回りのない商品開発部の俺が他企業の人間と交わる事などない。それに大体、男の事なんか一々覚えてない。
軍に所属していた頃か?あのイケメンも、兵士だったとか?
ありえる話しだ。元軍人が探索者になるって話しは、ままある事だし。
「あのイケメン、元軍人?」
「いえ?そんな話しは聞いた事ない……というか、あの人、新人の頃からソコソコ有名な探索者だったので、それはないですね」
「へぇー」
新人でソコソコ有名ってなんだよ。凄えじゃん。
迷宮というか、探索者に然程興味がないので俺は知らないがな。
20式の魅力を熱く語って戻ってきたイケメンは幾分不満そうな顔である。
「すいません、もっと20式の真髄を皆に伝えられたらよかったんですが」
学校関係者にやんわり注意されて戻ってきたイケメンだが、むしろ俺らよりよっぽど上手く宣伝してくれたぜ?
生徒たちも、「なんでコイツが?」って、ぽっかーんなってますよ?
「工藤先輩、鰻犬さんから今夜夕飯を一緒にどうかとお誘いを受けたんですが、どうします?」
「行きます。行きますよ、そりゃあ!むしろ、なんでそんな事一々確認するわけ!?即答しろよ!失礼だろ!そんな事も分かんないの!?行くでしょ!当たり前に!」
食い気味かつ、イケメンにあるまじき超絶ウザい迫力にキャリアウーマンは涙目である。
コイツ、イケメンで爽やかぶってるくせに、パワハラ上司かよ……。
俺の可愛い未来の彼女になるかも知れない女性を泣かすなんて、なんて酷い奴だ!
俺は、やっぱりイケメンは敵であると認識した。
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