第10話 イケメンライバルは、ままならない 前編

「それでは我が校にお招きした講師及びアドバイザーの皆様を紹介します。——」


東京は立川市にある、立川探索者高等技能学校への出向初日である。


探索者も細分化され、高度な技術を必要とされる時代である。

国の方針もあり、高等学校卒業資格を持った人間の進路先としては、近年急激に人気が上昇しているのが探索者を育成する機関である。

高等学校の中にも『探索科』などが設立される時代だ。

探索者として、より上を目指す人間が集まるのが、こういった学校だ。



俺達と同じく、今日この学校に訪れたのはいずれも迷宮関連の民間企業や迷宮関係機関の人間達である。


探索用装備の開発・販売を行なっている企業。

探索者向けの育成、保険、金融、不動産管理等、各種サービスを行なっている企業。

そして、探索者個人・団体、迷宮関連業者にいたる迷宮に関わる全てを統括管理する探索者協会。


探索者協会は半官半民の機関ではあるが、現在の大元は国土安全保障省を上位機関としている。


おりしも、世界情勢の悪化で軍だけでは迷宮に対処する事が困難になった政府が新たに発足させた迷宮対策省と軍と警察より人員をぶっこ抜いて、無理矢理設置したのが国土の安全を保障する為の機関である国土安全保障省だ。


第三セクターの探索者協会も中々に闇が深い。


そんな闇の深い探索者協会から出向して来た人員を見て、俺は運命をそして神を信じずにはいられなかった。


「やっぱり俺達は運命の糸で結ばれてるんだよ。ユイちゃん」


「ちょっと黙りましょうか?鰻犬さん」


そう、山梨のど田舎探索者協会には勿体無いくらいに可愛い受付嬢、高村ユイが派遣されていた。


紹介中にいきなり女を口説きだす俺に、周りの大人は若干引き気味だが、生徒の連中は興味深々である。


1学年の3クラスを集めた講堂で、各社それぞれを紹介していた教師が声をかけてきた。


「あ、あの、宮田製作所さん。自己紹介をお願いします」


「え?あぁ、宮田製作所の鰻犬蒲です。二週間前に探索者免許を取得しました。その時に彼女と運命の出会いをしました。以上です」


一部の生徒には受けたようだが、大半から呆れと侮蔑の表情が見て取れる。

別にここには、好きで来たわけじゃないのでどうでもいい。この歳頃の生意気なガキも嫌いだし。


「どーもー!宮田製作所の宮田っす!自分も免許取ったばかりです!ウチの先輩はこんなんですが、製品はちゃーんとしてるから安心して欲しいっす!あっ、後、俺ちゃんは彼女募集中でーす!」


完全に「お前が言うな」である。

ライバル企業の連中もこれには失笑だった。

そんな事はどうでもいいから、早くユイちゃんとデートしたい。


「探索者協会の高村です。二年生の皆さんは、乙種免許取得を目指していらっしゃる方も多いと思います。私は免許取得のお手伝いをさせてもらいます」


探索者には、その実力の指標である等級とは別に免許にも種類がある。主に業務範囲の違いであるが、本格的に探索者業で食っていく人間は、乙種以上を目指す者が多い。

丙種でも充分食っていけると思うが、パーティリーダーになったりクランを立ち上げたり、企業や行政からの直線依頼を受けたりする為である。


そんな生徒達は、協会職員のユイちゃんを尊敬の眼差しで見ているが、昨日今日免許を取ったばかりのペーペー探索者である俺と宮田を侮る態度がありありと分かる。



各クラスに分かれ講習と称した商品説明会が催された。


「鰻犬さん、お宅はやっぱりメインは20式ですか?」


他社のプレゼンを暇そうにしていた俺に、出向組の中でも一番の大企業でイケメンの男が声をかけてきた。

先程から、やたらとこのイケメンの視線を感じていた。

(ホモではなさそうなんだが……)


俺は、自分よりイケメンが嫌いだ。その上コイツは大企業のエリートである。

内心では舌打ちしてるが、俺だって社会人として最低限の社交性は持ち合わせている。


「え?あぁ、はい。まぁ、今のとこウチの看板商品といったらコレですからね」


宮田製作所ウチは色々と手広く商品を展開しているが、それだけにと言ってはなんだが"コレ"といった商品は乏しい。


利益率とか付属品とかでも追加利益を狙える魔導拳銃を今回はメインに据えている。


「いいですよねー20式フタマル!私なんか、三丁ほど所持してますしね!フルカスタムした実戦用、予備の軍用カスタム、観賞用の彫金仕様!」


「え?そ、それはまた、どうもご贔屓いただきまして。ありがとうございます?」


一丁で充分だろ、あんなもん。ちょっとマニアは何を言ってるのか分からない。


「鰻犬さんはどんなカスタムしてるんですか?」


そして、なんで俺が所持してる前提なんだよ。


「いや、個人では所持してませんね。最近免許取ったばっかりですし。今回持ってきたのも箱出しの純正どノーマルですよ」


「な、なんですって……」

いや、何その顔。イケメンが台無しになるほど驚愕している。


「宮田製作所さん、お願いします」


変顔のまま固まったイケメンを放置して、俺と宮田は商品である魔導拳銃の説明を始めた。



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