第7話 田舎の寒さにも、ままならない

あの人の事を理解しているつもりだった。

あの人を世界一愛してるのは私である。

あの人の全てが欲しい。

あの人の身も心も私だけの物にしたい。


その為ならなんだってするつもりだった


あの事件から帰国した私は、職場の伝手を使って彼の事を調べてもらった。

軍の機密に触れる事以外は簡単だった。

定期的に興信所に彼を調べさせもした。

おかげで運命的な出会いも演出できた。


貴方は私のヒーロー

世界中の人が貴方を"クズ野郎"と罵ろうとも



あの時のあの人の、私がさりげなくテーブルに置いておいた結婚情報誌『ザクスィー』ジューンブライド増刊号を目にしたた瞬間のあの顔が忘れられない。


私が焦り過ぎたの?


あの人が私だけを愛してくれるように、私だけを見てくれるように……

あの人を支えた。私がいなければ生きていけないくらいにあの人を甘やかした。


事実、あの人は私に依存するような生活を送っていた。

浮気も許した。酒もタバコも、ギャンブル代すら出してあげてた。

そろそろイケると踏んで、ザクスィーを置いておいた。

なのに、あんな顔をするなんて。


私が居なくなれば、きっと私の大切さに気づいてくれる。

そう思って私は彼の前から去ったのだ。

私がいなくなれば困るだろうと思い、少しだけお金を置いて。


なのに、どうだ?

あの人は、私に会いに来るどころか、電話一本、メール一通すらよこしてこない……


あのクズ野郎!


イケナイイケナイ、私とした事が……

どうやら、次の作戦を練らないといけないようだ。


彼の実物大写真プリント入り抱き枕を抱えると、暗い部屋の中でパソコンを立ち上げた。






ブルッと背筋に寒気がはしる

春とはいえ、いまだ山梨の気温は低い。この辺のクソ田舎は特にだ。

山梨には、"田舎"か"クソ田舎"か"富士山"かしかない。

ついでに店が閉まるのもクソ早い。

まだ夜の8時だぞ?


「これだから田舎は嫌いなんだよ」

俺達に絡んできた、数少ない灯りに引き寄せられる虫のごとき田舎特有の"ドンキー"にたむろするヤンキーを返り討ちにすると迷惑料を頂いた。


その金で美味い酒でも飲もうかと、近くのお勧めの店をヤンキー共に聞いてみたが、返事は芳しくない。


「あ、あの、この辺には……ないです。すいません……あの、そろそろ帰ってもいいですか?」


全く役に立たないクズ野郎どもを解放すると、いかにも頭の悪そうな車に乗って逃げていった。


「お前の夢みる"田舎でスローライフ"は満喫できたか?」


「今のどこがスローライフなんすか!でも、今のは抜きにしても、田舎の不便さは思った以上っすよねー。コンビニまで車が必要なレベルだとこんな大変なんすね?」

観光地を除けば、コンビニすらろくにないのが田舎だ。


「何だよ、お前が都会の人間だからってはなにかけやがって。顔は道産子の癖に」


「あんたは北海道の人に殴られろ!」


「それより、さっきから悪寒がするんだ。今日は大人しく帰って寝るぞ」


「先輩が風邪ってwww あっ、いや、ちょっと待って!アッツぅーーい!」


あまり買う人間がいないのだろう、熱々になった自販機の缶コーヒーをよく振って宮田の首筋に押し当ててやった。

寒さに弱い後輩をそっと温めてあげる優しい俺。



しかし、田舎は本当さっむいなぁ



—————————


ファンタジー感ゼロでお送りしてしまいましたね。

そろそろ頑張ってファンタジーやります。

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