第6話 彼女募集も、ままならない
人間、環境が変われば気分も変わる。
良くも悪くもではあるが。
彼女に振られ、鬱屈とした気分はだいぶ晴れたと言っていい。
そう、女なんてもんは星の数ほどいるのさ。
しかし、男も星の数ほどいるってのが問題である。
ようは、俺に回って来る女はやはり、そう多くは無いって事。
「だからさぁ、ユイちゃんさぁ、俺と君が出会ってしまったのは運命…そう!ディスティニーな訳!分かる?」
「よく私の後輩の話しからそこまで話しを飛躍できますね?ある意味尊敬します」
「イヤイヤ!君のおかげで、俺の心の傷は癒されたのさ、尊敬なんてやめてくれよ」
ニカッと爽やかスマイルを決めてみるが反応はいまいちだ。
「皮肉って知ってますか?鰻犬さん」
「……ハンバーグ!」
「肉娘、それはひき肉だ。それよりも、鰻犬なんて堅い呼び方やめてさ、蒲君って呼んでよ。蒲ちゃんでもいいけど」
「ハンバーグ……」
「確かにあの子は昔から思い込みの激しい子でしたが、人に暴力を振るうような子ではありませんよ?言葉のアヤです。きっと」
「英国製チョコウェハース!」
「それはキットカッツチョな。せめて、LIMEのアドレスだけでも教えてくれないかなぁ〜?」
「あの子が一人だけで講習を受けるのが忍びなくて、鰻犬さんを巻き込んだのは謝ります。でも、もう少しだけ暖かい目で見守ってあげてくれませんか?」
「そうね。今度の休みに『富士急ロウランド』でデートなんてどうかな?」
「スゲーっす。ここまで噛み合ってない会話とか、あんまし無いと思うっす」
残り半分となった合宿期間中にベッドインを目論むが中々難しい状況である。
やはり、俺のようなしがないサラリーマンと付き合ってくれる女なんて早々現れないのだろう。
そう考えると、あの逃げた元カノとの出会いは正に運命的と言えた。
〜〜 二年前 〜〜
アレは軍を辞め、さぁこれから何して生きていこうかとシャバを満喫するために都内の繁華街をブラつこうかなと電車に乗り込んだ時であった。
閉まる電車のドアをギリギリというか強引にこじ開けるように滑り込んできた女がいた。
勢い余ったその女性を受け止めた俺は、普通なら「死ねカス!」くらいは言っやっただろうが、その女性のあまりの美人さに「大丈夫ですか?怪我は?」などと紳士ぶって心配するフリまでした。
女性は俺に礼を言い謝罪した。
これがブスなら、在らん限りの罵詈雑言を浴びせていたと思う。
「あのぅ…失礼ですが、以前何処かでお会いしてませんか?」
「私が貴女のような美人を忘れる事なんてありえませんよ。残念ながらちょっと記憶に……」
ふと思った。というか、脳をフル回転させて記憶をほじくり出した。
そうだ、あの時の女外交官!あの時は髪はボサボサで化粧も服もボロボロだったが、それでも妙に美人な女性職員がいたわいな!
「「大使館の!!」」
声を揃えてあのクソッタレの救出劇が行われた、B国日本皇国大使館での出会いを思い出した。
4年前、政権交代で火がついたB国で、とっとと脱出するはずだった大使館職員数名が逃げ遅れるという事件があった。
現地採用の警備員は全員逃げ出し、地元警察もまるで当てにならない状況で投入されたのが俺がいた部隊だった。
一報を受けた3時間後には空の上だった。
最寄りの安全な空港でティルトローターに乗り換えて、その日の夜には現地に到着。
そこまでは順調だった。
あそこで俺達の乗ってきたティルトローターが落とされなければ。
『ホワイトバード ダウン!ホワイトバード ダウン!』
今でも鮮明に思い出す、けたたましく鳴るアラーム、怒号、爆発の衝撃からの揺れ、旋回する機体、そして不時着。
あの時のパイロットは俺達兵士全員の命の恩人と言っていい。良くあの状態から無事に不時着してくれたもんだ。怪我人はいたが、状況から見て誰も死んでないのが奇跡だった。
怪我人を運び出し乗ってきたティルトローターを爆破処理して大使館に向かった。
押し寄せる民兵を端から撃ち殺し、なんとか大使館の敷地内に入ると職員と合流。
たった22人の兵士で大使館を守り抜いた。
8名の戦死者を出しながらだ。
「帰ったら、俺達英雄だな!」
誰かが言った。
「死んだ奴ら含めて…全員が勲章もんだぜ……」
俺も、皆んなも、職員の誰もがそう思っていた。
だけど帰国した俺達を待っていたのは非難と中傷、軍事裁判であった。
この頃からだった。
国や軍に嫌気が差してきたのは。
部隊は解散され、俺は国内のダンジョン対応のチームに編入された。
クソ、嫌な事を思い出してしまった。
まぁ、そんな運命的な再会を果たしたってわけだ。
英雄どころか戦争犯罪者のような扱いを受けた俺達だったが、彼女はその場にいた真実を知る数少ない人間だったのだ。
当時は救出後もゴタゴタしていて、アレっきりになってしまってろくに礼もできなかった事、俺達が言われなき批判を受けた事に対して謝罪をする彼女に荒みきった心が救われた。
俺達はそのまま夜の街に繰り出し、意気投合。
アレよアレよという間に男女の関係になり、彼女は再就職の世話までしてくれたのだ。
〜〜〜〜〜
まぁ、結果的には宮田も言っていたが、土台俺なんか彼女と釣り合うような男ではなかったって事だが。
「どっかにイイ女落ちてねぇかなぁ」
「そんな事言ってる人間に寄ってくる女はいないっすよ」
「……お前がゴブリンに
「えっぐぅ!」
「動画は撮っといてやるから心配すんな」
「鬼畜ぅ〜!助けない前提っすか?」
「さて、今日から実技訓練が始まるから準備しておかないとなぁ」
戦闘技能、採取、マッピング、救命救急など最低限のことは教えてくれる。
出来るようになるかは別としてだが。
最低限、知識だけでもあるとないとでは生存率が違うらしい。
まぁ、一週間の合宿で一端の探索者にするなんて無理な話しなのだ。
後は実地で覚えたり、経験してランクアップを計れという事らしい。
なんなら有料で育成セミナーや個人レッスンを生業にしてる奴等もいるし、専業探索者ならクランに所属してベテラン達に教えを乞うのが一般的か。
「先輩は射撃訓練もあるんすよね?」
「あのサイコ・レズと一緒と思うと気が重いぜ」
「お姉さんも言ってたじゃないっすか、暖かい目でみてくれって」
「分かってるよ。それより、お前のその装備さぁ」
「あっ!w分かっちゃいます?やっぱり!www宮田製作所のハイエンドモデル、ソフトスキンシェルっす!流石お目が高い!」
「ヘボい奴が張り切ってる感が凄いな。3周くらい回ってもやっぱりダサい!みたいな感じでお前に似合ってる」
「言い方ぁっ!イヤイヤこれイケてるでしょ?むしろ、なんで先輩学校ジャージなんすか!?寝巻きかと思ったっす!」
軍にいた頃の自腹で買った装備を荷物の中から見つけ出したのだが、2年もの弛み切った生活のおかげでサイズが合わなかった。
「宮田、こんな講習なんかで張り切って成金装備付けてたら痛々しいとは思わんか?」
「学校ジャージの奴には言われたくないっすねぇ」
「これくらいの方が逆に格好いいんだよ。お前なんかふんどしで十分だ。身の丈に合った格好にしろよ」
同じ講習にいた女子大生二人組にどっちがダサいか聞いたら、両方とも「クソダサイ!」というお言葉を賜った。
新しい彼女を作るのも結構大変なんだな。
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