第3話 仲間作りも、ままならない
富士五湖の一つ、山中湖の湖畔にほど近い高台にある探索者協会富士五湖支部、兼教習所、兼宿泊所は元々はホテルだか旅館だったものを探索者協会が買い上げたものらしい。
「なんか、そこはかとなく時代を感じるっす」
けして今風ではないのは確かだ。
「一週間だけだろ。中は普通に綺麗なんだから文句を言うな。このボンボンのクソ野郎」
「辛辣ぅ〜!先輩いつまで拗ねてるんすか」
「お前がダンジョンで大怪我とかすれば気が晴れるのになぁー」
「陰湿ぅ〜!女に振られてからどんだけ鬱屈してるんすか。そろそろ前向きにいきましょうよ!」
「うるせぇ!お前に俺の気持ちが分かってたまるか!」
スーツケースを転がして教習受付に行くとカウンターの前には先客がいるようだ。
大学生だろうか?二人の若い女の子が受付嬢と楽しそうに話している。
「やっぱり受付係の方も探索者免許持ってないとダメなんですよね?」
「そうですねぇ、ダメではないみたいですけど、持ってた方がいいのは確かですね」
「やっぱり!私達も協会に就職希望なんです!」
「あ、あの、ランクは高い方がいいんですか?」
「職種にもよると思いますよ。私なんかはDランクですね。高くも低くもないって感じですかね?」
フフフと可愛らしく笑い、質問に律儀に答えている受付係のお嬢さんにみとれていると、あちらも気がついたようだ。
「お待たせして申し訳ありません。教習受付であればこちらで、必要書類を確認します」
「イヤイヤ、こんな美人だらけの風景を眺める事ができて、こちらとしては嬉しい限りですよ。まるで一幅の絵を見ているようだ。な?」
「え?なんすか?いっぷくって?可愛子ちゃんばっかりだなぁってのは見れば分かるっすけど」
受付嬢は流石にこの手のお世辞は言われ慣れているらしい反応で笑顔で受け流す。
二人組の若い娘達もそれなりこんな会話に慣れているのかと思ったんだが。
「ちょ、ちょっと…、いきなりナンパとかどうなの?ちょっと場所とか時間を考えなさいよ!」
別にナンパしたわけじゃないんだが、こんな反応されるともうちょっと楽しみたくなる。
「いやー申し訳ない。君達があまりにも可愛いかったからついね?せっかく提案してくれたんだ、後ほど場所を変えて親睦を深めようじゃないか。これから一週間は俺達もここにいるからさ」
「あっ!いいっすね!湖の方にダイナーがあったし、今日の教習が終わったら皆んなでそこで親睦会やるって事でOKすね?」
「え?えーっと、あの、あ、その、ハイ。今日から受講生になります、稲垣です。よろしくお願いします」
「ちょっと!綾香?なんでそんなホイホイついて行く事にしてんのよ!」
「え?だって同期の受講生だよ?
「そうゆう事だブンチャン。これから一週間、同じ釜の飯を食べる仲で、今後も何かと縁があるかもしれないんだ」
「ちょっ、誰がブンち…「ソッス、ソッス!それに、俺達こう見えて探索者向けの用品のメーカーに勤めてるから、仲良くなってれば結構便利だと思うんすよねー」えっ!?装備メーカー!?」
おっと、ここに食いついたか。
まぁ、探索者用の装備は高いからなぁ。
若い子がホイホイと買える値段ではない。
家がそれなりのご家庭なら別だが。
宮田ん家とかな……
「ジィーーー」
「「「 …… 」」」
「ジィーーー」
「え、えっと。あ、貴女も受講生なのかな?制服って事は高校生なのかな?」
「……ダイナー」
いつの間にか変なイキモノが受付前で俺達の会話の輪に加わっていた。
「デッカいハンバーガーあるぞ」
「っ!」
「それも超絶肉肉しいのがな」
「〜!!」
「勿論おごりだ」
「行く、絶対」
「よっしゃ決まりだ。未成年者もいる事だし女の子が少ないと不安だろうから、受付のお姉さんもできれば来てくれると助かるなぁ」
そう、勿論これが狙いだ。
若い女の子も嫌いじゃないが、流石に学生はない。
協会職員でそこそこ若くて可愛い。
落とす獲物としては申し分ない。
「そうですねぇ、まぁ、仕事が終わった後に合流という事で良ければ、参加させてもらおうかな」
「お姉さん本当にいいんですか!?私達ももっと話しがしたかったんです!ね?綾香」
宮田と俺の男二人だけで女の子のキャッキャウフフに囲まれていたのだが、他の受講生らしき人間がチラホラやって来たので書類を提出してその場を離れた。
しかし教場の室内を見渡すと、やはりと言うか受講者達の平均年齢は若い。
学生を中心に十代後半から二十代前半がほとんどのように見える。
俺と同じ位の二十代後半が数人に三十過ぎは二人程しかいなかった。
この中の何人が探索者として活躍できるのか分からないが、なるべく仲良くなっておきたい。
探索者も、人脈が広いに越したことないはずだ。
"同期のよしみ"なんて人との縁を結ぶのに格好の言葉である。
初日の講習は探索者に課せられる義務や権利、法令関係などの座学ばかりであった。
仕事でもデスクワークはあるが、講師の話しを聴いたりするのはかなり久しぶりだった。
「久々に勉強とかするとさ、疲れるよな」
「先輩イビキかいて寝てたくせによく言うよ!」
そんな下らない会話をしながら、
二階のベランダにある喫煙所で宮田と下の方で繰り広げられていたイジメの様子をのんびり観察していた。
「オイ、デブ!早くジュース買ってこいよ!」
「あの、やめて下さいよ!なんなんですかあんた達」
「オークのくせに言葉が喋れんじゃん、マジウケる」
パシっと蹴りを喰らわせる田舎ヤンキーみたいな金髪出っ歯。
「本当に協会に報告しますよ!あ、痛っ!」
頭を叩かれるポッチャリ。
「オメー、マジで山に埋めんぞコラ!いいから大人しく俺らの言う事を聞いてればいんだよ!」
リーダー格と思われるブタゴリラがゴスっと脇腹にパンチをいれると、ポッチャリ君は腹を押さえて蹲った。
「今のは効いたっすねー」
「つーか、本当に報告するならとっとと逃げればいいのにな。なんつうか、トロ臭い奴だな」
「オイ!さっきからゴチャゴチャうるせぇんだよ!見せもんじゃねぇんだ!とっとと消えねーと同じ目にあわせんぞ!」
一番弱そうなモヤシヤンキーが吠える。
「おおっと、弱い者イジメの雑魚がイキがってんぞ。こっわ(笑)」
「何つったテメェ!降りてこいやコラ!」
ブタゴリラが叫く。
「宮田、人が来ないか見張ってろ」
「またっすか先輩」
「来いと言うから行ってやるだけだ」
「手加減してやって下さいよ。相手は
尚もわめき散らすブタゴリラめがけて二階のベランダから飛び降りた。
「トウ!」
「は?ブッフェー!」
顔面にライダーキックが炸裂し派手に吹っ飛んで転がるブタゴリラ。
「え、あ、このガハァッ!」
ライダーキックに見惚れてたのか、油断しまくってた金髪出っ歯の喉に平拳突きをお見舞いする。
自分でやっておいて言うのもなんだが、メチャクチャ痛そうな上に呼吸困難で苦しそうだ。
「あ、あ、ブギャッ!んおおぇァァァ……」
仲間がやられて完全にビビったモヤシヤンキーの鼻面に軽いジャブを放つと三日月蹴りで脾臓を狙って打ち抜いた。
「フン、口ほどにもない。さてさて、講習費を払って貰おうかな」
雑魚クズ共のケツポケットから"こんにちわ"している財布から現金だけ抜く。
三人合わせて約10万円也
「ホラ、戦技講習の助手代だ。君には貰う権利がある。半分は俺のだけどな」
「え!あ、いや、そんな、は犯罪じゃないですか!いりませんよ!」
「何言ってんのかよく分からないな。これは戦技の講習だよ?コイツらは講習を受けたから金を払う。サンドバッグ役の君も助手代くらいは貰ってもらう。そういう事だ」
「そんな、そ、それじゃ共犯じゃないですか!」
「そうだね。ついでに今なら殴り放題だけど、ちょっとヤっとく?」
「やりませんよ!貴方、ちょっとおかしいですよ!」
「フッフッフ、だから何?あんまりゴタゴタ抜かすと湖に沈めるぞ。黙って金を受け取って消えろ。お前に探索者は無理だ」
「センパ〜イ。誰か来るっす」
見張り役の宮田から合図を受けた俺は、金の半分をポッチャリ君の胸ポケに無造作にねじ込みその場を離れた。
「先輩、本当に探索者仲間を作る気あるんすか?」
「……だから助けてやったつもりだったんだが?」
「アレでっすか!?」
「……親睦会からは本気出す」
講師が受講生の出席確認を行うと四人ほど少ないと、ちょっと慌ててた。
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