第2話 装備を整えるのも、ままならない
免許取得費用の半額を会社が負担してくれたものの、30万の出費は痛かった。
俺の額面給与より高いのだ。
「本当なら社員の副業の為に金を出す会社なんか無いっすよ?試験的に社員が探索者として働くとどうなるかのサンプルの為っすから」
確かにそうかも知れんが、金欠の俺には痛い金額である事に変わりない。
「これで、更に装備代となるとな……」
ダンジョンに潜る為の装備は総じて高い。
上を見ればキリがなく、下を見たって一般人から見たら高額だ。
自分が働いている会社が探索者向けの商品を扱う会社なのだ。
俺達は、それを一番よく理解している人間である。
「オレなんか営業部だけど、先輩は開発部でしょ?試作品とか使わせて貰えないんすか?」
「そうゆうのは、専属探索者の仕事だからなぁ。俺達はその前段階の評価が仕事だし、無理なんじゃねぇかな?」
「オレは親父と兄貴に頼んでウチのハイエンド商品一式を揃えて貰ったっす」
「お前なんかダンジョンで死ねばいいのに」
「ひでぇ!これから一緒に探索者になろうって後輩に何て事言うんすか!」
「まぁ貴様のようなヤツはいつか必ずしっぺ返しを喰らうんだよ。俺が保証する」
「やーめーろー!そういう縁起でもないこと言うと本当にそうなりそうなんだから!」
実家の支援を全面に受けた宮田を妬み嫉み僻む俺。
全力で呪いをかけた俺は、協会に併設されてある武器屋を覗いた。
「アレ、ウチの商品っすねー」
宮田が指差す先の商品を見ると、自分が初めてそこそこ開発に携わった商品がガラスケースに陳列されている。
「先輩もアレの開発に関わったんすよね?」
「ああ、20式魔導拳銃な。元の20式をダンジョン用に改造するって事で、それを使用した事がある俺にもお声が掛かったって訳だ。まぁ、出来上がったのは見た目だけ20式の完全な別物だったけどな」
「20式って軍には評価高かったですし、見た目もファンが多かったですから結構売れたんすよねー」
そうだ、結構売れたのだ。
今でもそれなりに定番化した人気商品ではあるが、現在これに代わる新型を開発中である。
「次世代型は難航してるみたいっすね……」
「らしいな……」
俺も最初は試験評価に参加するはずだった。
今時の流行りに乗った装弾数の多い高貫徹力・小口径弾を使用した物だったのだが……
「アレはウチの技術じゃ無理!とは言わんが苦戦するだろうな。元々のノウハウを活かした大口径拳銃の復活を具申したんだが、プロジェクトから外されちまった……。あの開発部長のクソ野郎には、髪が薄くなる呪いを掛けておいたぜ」
どのみち俺の経済状況で"ガンナー"は無理ってもんだ。
一番慣れてる武器は魔導銃のはずなのに……
武器代の高さと弾代のランニングコストは駆け出しの、それも副業で小遣い稼ぎのにわか探索者が使う武器ではない。
「おっ、あったあった!コレだよコレ」
「……先輩、それ……」
「ヒライズミ製の『バールのようなモノ』シリーズの八角120cmエントリーモデルだ!
突いてよし、叩いてよし、えぐってよし、俺によし、お前によしの優れモノ!」
「先輩……」
「"やっぱり頑丈、100匹ノシても超丈夫!"で有名なヤツだぜ」
「先輩、他社製品っていうのは百歩譲りますけど……。バールってなんすか?武器じゃないっすよね?先輩、剣とか使えないんすか?」
「お前、馬鹿にすんなよ?俺だって一応、元軍人だぞ?剣も一応使えるが銃剣道の方が得意だっただけだ。それならヤッパ、バールだろう」
よく分からないといった顔の宮田を無視して一本2万円のバールのようなモノを購入して保管して置いてもらう。
まだ免許持ってないので武器の所持や持ち出しが禁止されてるのだ。
バールなら大丈夫だろ?ってか?
馬鹿を言うな、バールだって職質されたらそれなりにまずいんだ。主に特殊工具としてだが……
明日から一週間の合宿免許である。
会社にはダメ元で有給休暇の申請をしたら、すんなり受理された。
もしかすると、宮田が手を回してくれたのかと思って聞いてみたが「え?なんすか、それ?知らないっす。オレも有給にしとけばヨガッダァ〜」などと言っていたので関係ないらしい。
防具は……とりあえずまた今度だな。
既に手切れ金も残りわずかだ。
教習所には貸し装備があるらしいし、それでもいいや。
比較的浅い階層なら防具なんぞいらんだろ。
「当たらなければどうということはない」
昔のエース探索者の言葉だったか?
いい事言うぜ。今の俺の為にある台詞だ。
「先輩、金貸しましょうか?」
「貴様のような腐れボンボンに借りを作るくらいなら、ゴブリンの足を舐めた方がましだ」
「どんだけ嫌われてるんすか、オレ!」
全ては経済格差のせいだ。
まぁ、俺の無計画かつ無駄な浪費のせいでもあるのだが。
それでも妬ましいのだからしょうがない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます