寝ても覚めても
@hasibiro-kamonohashi
第1話 桜の季節に
桜の蕾も膨らみ始め、春の訪れを待っているようだ。いそいで先に咲いてしまったいくつかの花が、暖かい風にそよいでいる。
何年ぶりだろうか。教壇に立つのは。明人と真を産んでから、また仕事をするとは思ってもいなかった。真が小学校に上がり、やっと時間が出来た。2人の習い事のお金も稼がなければならない。
そんな思いから、また教師という仕事を始めることにした。もう何年前のことになるのだろう。
「先生!! 」
びっくりした。目の前には薄茶色の髪の毛、白い肌。
「えっ…遠藤くん…?! 」
忘れもしない。彼は私が初めて教えたクラスに在籍していた。10年も前だ。私によく懐いてくれた真里という女の子が好きだった男の子だ。遠藤優は俗に言うイケメンで、成績も良かった。私が28歳の時だったから、ちょうど10歳下の18歳、高2年生。懐かしい。女の子にいつも嫉妬されていた抜けるような白い肌は、あの頃と全く変わっていなかった。
「先生、まだS高にいたんですね。」
「いいえ、一回やめたのよ。でも、今年度からまた非常勤講師として働くことにしたのよ。」
「…そうなんですか。一回やめたって…?」
「ああ、子どもが出来たからね。」
「そうだったんだ。」
「遠藤くん、教師になったのね。」
「教育実習ですよ。目指してるんです。」
「そうなのね。教科は? それにしても遠藤くん、全然変わらないね。10年も前と思えない。」
「そんなに経ちますか? 大学院にいたから、実感わかないですね。教科は先生と同じです。」
「びっくり。でも嬉しいわ。教育実習がんばってね。」
「はい。ありがとうございます。」
私たちは、そんな会話を少しだけ交わして、職員室の扉に手をかけた。
寝ても覚めても @hasibiro-kamonohashi
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