第2話
翌日は曇天。これで青空であったなら、旦那様肝いりの日本風の庭園を散歩して、美しい桜を日がな一日眺めたいものであるが仕方がない。
昨晩はなかなかに大変だった。小間使いが大声を出したものだから屋敷の者たちだけでなく、屋敷と渡り廊下でつながっている孤児院に騒ぎが伝わってしまってしまった。子どもたちとシスターも起きだしてきた。夜中の変な時間に目覚めた子どもたちは興奮してワーキャーとずぶ濡れの少年を見てあれこれ勝手を言う。
「だれ?」
「びしょびしょ!」
「あたらしいおともだち、きた!」
そんな子どもたちをなだめつつ、服を脱がせ、体を柔らかなタオルで拭ってやり、清潔な服を着せてベッドに寝かす―。
文字数からするとそんな大層な作業には見えないかもしれないが、これが結構重労働。赤子ならともかく、大人になりかけの少年と言うのは結構重いものなのだな、とあくせくと動き回る屋敷の者たちを見て、ユキヤナギは思った。
そのうちに、医者のハドソン先生が来てあれこれと診察していった。十中八九長く雨に打たれたために風邪を引いたのだろうと。起きたら飲ませるようにといい、粉薬を何包か置いていった。
連れてきた張本人のユキヤナギが少年から距離をおいて高みの見物を決め込んでいるのに腹を据え兼ねたのか、ユキヤナギはシスターアンから
「子どもたちを寝かしつけるように」
と厳命された。
渡り廊下はしっかりと窓が閉まっているのだが冷える。冷えた渡り廊下を通ったためにすっかり目が冷めてしまった子どもたちを寝かしつけるのは、至難の業だ。こちらは日中の疲れが蓄積して、暖房の入った部屋に入るだけで船を漕ぐ始末だというのに、子どもたちはと言うと叱ってもなだめてもくすくすと笑うばかりで一向に寝る気配を見せない。
そのおかげでユキヤナギはすっかり今日は寝不足なのであった。
昨夜は一番小さい3歳のシータのベッドにお邪魔したのだが、小さなシータを寝返りして潰してなならないと変に緊張していたからか、体が変に凝りかたまってしまった。小さい子どもが寝るとその体のどこにそんなエネルギーがあるのかと思うようなぽっぽっとした暖かさを発するが、その暖かさのお陰で昨日はいつの間にやら眠ってしまったようである。寝不足のユキヤナギがなんとか昼過ぎに目を覚ますと夜具の中にはユキヤナギひとり。庭から子どもたちの元気な声が聞こえてくるから運動のために皆で庭に出ているのだろう。
はてさて、昨日の少年はどうなったかと思いつつ、ベッドから這い出る。少年は屋敷の者たちにあてがう部屋と同じ部屋を割り当てられたようだ。
自室にたどり着くとユキヤナギは簡単に身支度を整えて、少年の様子を見に行った。
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