第2話 自称ハッピーエンド委員会

 城へ戻る道筋はなんとも奇妙に一行なった。姫率いる自称、ハッピーエンド委員会と名乗る彼ら。サーカスの劇団と挨拶した方が自然と受け入れられるだろう。

 先程の墓守りはしばらくすると正気に戻ったのか冷や汗を流し懸命に頭を下げ謝罪した。なぜ自分自身があの様に動いたのか分からないが何をしたのかは鮮明に覚えていた。

 ひとまず自称ハッピーエンド委員会と名乗る者たちのことを口外しないことを伝えて離れたのだ。


「助けてくれてありがとうございました。...その、今どういった状況なんでしょう?」

「護衛だよ。護衛。」

「えっと、つまり付いてくると?」

「あぁ。」


 姫はさて困ったといった表情で愛想笑いを振り撒く。彼らが普通の者たちであれば抜け出したことを置いといて命の恩人として城へ招待できただろう。だが彼らは外見がオオカミ、鳩、竜...?の3人組だ。呼べば城は混乱に陥るのは間違いなかった。

 かと言って命を救ってくれた恩人たちを外見だけの理由で無碍にはできない。


「あの、できればあなた方について教えていただきたいんですけど。」


 できれば城に着く前にと言いかけるが、そこはぐっと言葉を飲み込む。


「そうですね。姫さまは童話をご存知ですか?」

「はい、小さい頃はたくさん読んでました。」


 鳩の執事が優しく尋ねる。童話。その言葉に想いに耽っていた時間を思い出すが、今は目の前の話だと振り払う。


「この世界も。貴方も。それと同じなのです。」

「は?」


 突拍子なことについ、素の返しをしてしまうがここに姫の行動を咎めるものはいない。


「この世界を作った神様は姫さまが女王になるというストーリーの一部を切り抜きお話として作ろうとしています。しかし、先程のように命が狙われることがあります。私たちは姫を困難から守るべくやってきた所謂、神の使いの様な存在です。」


 いきなりの事で理解が追いつかないというのが正直な感想だ。鳩の執事は説明が終わったと無言の笑みで分かりましたか?と理解を押し付けてくる。


「ほんっと、聞かれたことをそのまま答えるしかできねぇ不良品だな。姫サマ分かってねぇぞ。」

「獣風情がいちいち騒がしいですね。」

「テメェも鳩じゃねぇか。」

「私の場合は仮の姿なので。それとも貴方が持ち歩いてくれますか?」

「良いぜ?手が滑って落とすかもしれねぇけどな。」

「答えなくて結構です。こちらからお断りなので。」


 この短時間で分かったことはどうもこのオオカミと鳩は相性がかなり悪いということだ。

 落ち着いた雰囲気の鳩であるがオオカミが関わるとどうも好戦的になる。オオカミもオオカミで元々がぶっきらぼうな性格なのか常に喧嘩腰だ。


 そんな3人組の中で一番の良心的なのは間違いなくこの竜の青年だろう。


「えっと。僕たちは姫様が女王様になるのを助けるために神様から命を受けてやってきたって事なんだけど...わからない事はあるかな?」

「鳩さんが言ってたストーリーの一部を切り抜いてお話を作るってのが分からなかったな?」

「お姫様、童話を読んだことがあるって言ったよね?それってどんな話かな?」


 竜の青年はやはり話をする時もフードを被り続け一切、顔を見せようとしない。


「勇者がお姫様を悪い奴から守るお話だよ。」 

「実はそれは本当にあった話なんだ。」

「えっ、そんな話全然聞いたことないよ!?」


 存在しないはずの勇者がいたかもしれないという事実に姫は抑え込んでいた勇者になりたい思いを持ちながら竜に近づく。いきなりの押しに竜はぎこちなく後ろへ下がる。


「いや!えっと。本当にあった話って言ってもこの世界とは別の世界の話なんだ。その話を神様は物語としていろんな世界にばら撒いて本にしているんだ。」

「あぁ、そうなんだ。それならもしかしてボっ...私もおとぎ話の登場人物としてどこかの世界に広まるって事なの?」

「うん!そうそう!」


 心に閉じ込めた一人称を抑え込み、冷静さを思い出す。それに気づいていない竜の青年は姫が話を理解したことに対し嬉しそうにしている。


 いくら非日常的なことが起こっても忘れてはならない。自分はこの国を治める女王になるのだ。先程の墓守の様に突然、襲われる可能性だってある。

 母の意志を継ぐ姫は未だ言い合いを続ける二人組と竜に対し頭を下げた。


「疑ってしまってすいません。改めてお願いさせて下さい。私を、この国の女王になるために私を守って下さい。」


 不思議な現象が起こっている以上、こちらも不可思議に頼る他ない。この国を、母の様な女王の様により良き国にするために姫は決意を抱く。


「俺たちは元よりそのつもりだ。任せな。」


 言い合いを終えたオオカミが心強い言葉を返してくれる。しかし、それでも。姫の悩みの種はもう一つ。


 彼らの外見だ。自分を守ってもらう為には近くに居てもらう方がいいがその為にはアレコレと説明しないとならない。


「ありがとうございます。ただ...皆様をどうやってお城に招待しようか良い案が思いつかなくて。私が通った抜け道で誰にも見られず戻るのはできるのですが鳩さんとオオカミさんの体型では通れそうにないんですよね。」


 悩ませる姫に3人組はあぁ、と言葉をこぼす。


「それなら心配ありません。私の姿は仮の姿なので。」


 鳩の紳士はそういうと執事姿から本物の...というには語弊が生まれるが森の中にいても違和感のない鳩の姿になる。小さくなった鳩は姫の肩に乗れるほどだ。


「えっ。」


「そんな事で悩んでたのか。」


 オオカミはオオカミで鳩の様に姿を変え姫と変わらないほどの人間の少年になった。少し柄が悪そうなところを除けば普通の子供だ。


「えっ。」


「もしもの時は僕の魔法で姿を隠せるしね。」


 竜の青年は小さな杖を片手に短く振ると光の粒子が飛び透明になっていく。


「えっ。」


 心強くなった反面、姫の内心では余計にサーカス団の単語が抜けなかった。

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ようこそ!ハッピーエンド委員会! 辛子醤油 @karashi13

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