第91話 猫は癒しです
コーディエライト先生の研究室。そこにはいつもの三人と一匹の他に、ずっと不在気味だったコーディエライト先生の姿もあった。
「これでやっと研究再開できますね」
「ずっと足止め続きですまんかったな」
職員会議から戻ったコーディエライト先生が久しぶりに顔を出してくれたのだ。
「ミャー」
「ルビー、お前もろくに構ってやれなかったな」
主人に抱っこされると、ルビーも嬉しそうに喉をゴロゴロと鳴らしている。
「そういえば、研究ってずっと何やっているんですか?」
「確かに。俺も知りたい」
クリス皇子に支援してももらってまで一体何の研究をしているのだろう。ちょっとした興味本位で聞いたつもりだったのだが、…それがまずかった。
「…………よく聞いてくれたね!」
「うむ。君達なら私たちの高度技術もわかるだろう」
「ですねっ!」
先生もシノン先輩も目の色を変えて、話始める。それはまるで魔法詠唱のようで…。正直私もアスターも長すぎてぐったりするほどだった……。
「精霊石に魔法を付与する方法があるだろう?帝国でもその研究は進んではいるがまだまだ魔術者不足だしコストも掛かる」
「僕らはね、もっと低コストで実用性のある魔法の応用を考えたいと思っているんだ」
松明や調理用の火起こしや光。冷蔵効果など身の回りの生活に役立つような魔法付与効果の精霊石の普及率は低く、皇族貴族に浸透はしてきているが、平民の元へは高価で行き渡らない状況だった。
「私達が課題としているのは如何に大量の魔力を集められるかということだ。それには『器』が必要なのだ。強固な……ね」
現在では魔術師が精霊石に魔法を込め加工するのが一般的な方法だった。だが、先生が考えているのはそれとはまた違った方法のようだった。
「それとね。僕らはもう一つの可能性を考えているんだ」
「可能性?」
「うん、膨大な魔力を集められるとしたら竜も召喚できるんじゃないかってね」
「竜って、おとぎ話の?実在させるってできるんですか?」
「古代の文献によるとな、そもそも精霊のエネルギーが世界中の至る場所に混在するのは、六つの各属性魔法の象徴として表されている神竜が大地に散ったからではないかとも研究者の間では言われているんだ」
「確かに、古くから知られるおとぎ話や唄には竜の名前がよく出てくることがありましたけど…」
「他にも、各方面で大きな化石が見つかってもいるだろう?」
「でもその骨が竜だとはわからないですよね?」
「だからこそ、そこがロマンなんだよっ!クレア君っっ」
「ひぇっ」
コーディエライト先生はクレアの両肩をガシッと力強く掴むと、更に近年発見された化石について文献との関連性について熱く語っていた。
◆
「それで、秋の大会のことなんだが。第二皇子への水晶の献上は、生徒会代表としてクリス皇子、生徒代表はクレア君、君にお願いしたいんだ」
「え、ええ」
思わずアスターの顔を見てしまう。
(どうしよう…。私、うまくやれるかな)
(がんばれ。こればっかりはどうしようもない)
「そんなに緊張しなくてもクリス皇子もいる。十分なサポートをしてくれるだろう」
「は、はい」
クレアは急な大役を任せられ少々落ち着かない様子だった。
「なんとかなるさ」
「う、うん…」
他人事の様にそう言うと、アスターは抱きかかえていたルビーをふわっと私の膝の上に乗せてきた。
「???」
「ルビー抱っこしてたら、少しは楽になる」
キリッとした顔でアスターはそう言う。もしかして、ルビーに癒してもらえとでも言っているのだろうか…。なんだか、ルビーには申し訳なかったけれど、数回撫でると喉をゴロゴロ鳴らしてくれた。
(嫌がってはいなさそうね)
両手で優しく抱きしめてみるとふわふわの白い毛がとても気持ちいい。
(…こ、これは癖になりそう…)
とても素晴らしい毛並みだった。アスターやティアラが虜になるのもどこか頷ける。
「あ、そうだ、シノン先輩。先輩は結局あれからフレジア嬢に会えたんですか?」
ほっこりしていると、突然アスターが爆弾発言的なことを言い出した。クレアからしたら、その件はそっと波風立てず、うやむやにしておこうと思っていたのに。アスターはそうではなかったようだ。
「それが、やっぱり、声掛けれなくてねー。…駄目だね。研究ばかりかまけて、恋愛は全くでさ」
「そうだったんですね…。まぁ、男でもそういうの、勇気いりますもんね」
口をパクパクさせるも、発言せずクレアはそっと二人の会話をただ見守ることにする。自分が出たら、また自分を通して会える機会を作ってほしいと言われ兼ねないし…。
ルビーの背中を優しく撫でると、腕にぎゅーっと前足でしがみつきブレスレットにすりすと頭を擦りつけてくる。だいぶ気に入ってくれたのだろうか。ルビーはその後も、膝に乗っている間ずっと喉をゴロゴロ鳴らし上機嫌だった。
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