第3話 お嬢様は入学する3


 次の日、クラスへ着くとすでにフレジアが席に座っていた。



「フレジア、おはよう」


「おはよう。まぁ!その髪飾りどうされたの?」


「ふふ…。昨日の蝶々みたいでしょう?以前ある方に頂いたものなのだけど、ちょうどいいなと思ってつけてきたのよ」



 そう言って耳の横に留めた蝶の髪飾りを指差してみせた。その髪飾りは淡い青色の宝石で繊細に作られており、色鮮やかに煌めいていた。私のとてもお気に入りの髪飾りでもある。



「すごく似合ってるわ。素敵ね。頂いたっていうのはもしかして婚約者の方かしら?」


「……え!…うん。どうしてわかったの?」


「うーん…。だってティアラの顔を見たらなんとなくわかってしまったというか、ティアラにとてもぴったりな髪飾りだったし」


「………」


「ティアラ、お顔が真っ赤よ?大丈夫?」



 思わず両手で顔を覆ってしまう。そんな私をクスクスとフレジアが笑っていた。



「でも 本当素敵ね。 私もそんな婚約者がいたらなぁ」


「フレジアはそういう方、決められていないの?」


「私はお父様にわがまま言って学園を卒業するまで保留にしてもらっているの。だって一生のことだし。できたらその…恋もしてみたいし」



 もじもじとそう語るフレジアの横顔はまさに恋に憧れる乙女の表情をしていた。



「だからね?……私はこの学園で素敵な出会いをして!素敵な方を見つけるの!!!!」



 ……と気合を入れる姿は先ほどとは打って変わって一気に炎を背中に背負ったように熱く情熱的だった。




「きゃっ…………!」




 突然の悲鳴に思わずそちらの方へ振り向くと、昨日ハキハキと自己紹介をしていたストロベリーブロンドの少女が立っていた。その子の視線はなぜかこちらを向いている。



「どうかされましたか?」


「はわっ………!い、いえ!!な、なんでもない……です」



 そうは言うものの、彼女の顔色は何か良くないものでも見たかのように目線が漂っていた。



「………?」


「ごっ、ごめんなさい。髪飾りが光に反射してちょっと眩しかっただけなので!びっくりしちゃっただけなの…!なんでもないので気にしないでください…」


「あ…、うん。そうだったんですね。でも私こそごめんなさい…。眩しくさせてしまうのなら取るわね…」


「えええええぇ!だだ大丈夫です!!そんな!!!気にしないでください!!!!!」



 慌てふためく彼女を見ていたらなんだか可笑しくなってしまった。思わずふふっと声が出てしまう。表情豊かで可愛い子だなと思うと話しかけたくなってしまった。


 結局、それがきっかけで私たちはその後も会話を楽しみ入学二日目は少し緊張せずに過ごすことができた。ただ、お気に入りの髪飾りはクレアの反応が気になったのでそのままカバンの中にしまうことにした。


 授業が終わり三人でお昼ご飯を楽しんだ後、私はまたふらりと学校探索することにした。今回はちゃんとマリアにも夕方までには帰ることを伝えてから出てきた!一緒に行くと言われたけれど…そこは断った。


 実は、この自由時間を使って、カイル様の授業風景を覗いてみたかったのだ。ソフィアのクラスももちろん行きたかった。でも廊下がシーン…っと静かだったのでとても行ける雰囲気ではなかったのだ。


 カイル様のいる研究生の棟は個々での研究が主なので時間に縛りがない。なので廊下を歩く研究生らしき人たちもそれなりに見かける。


 こちらへ行く際に、蝶の髪飾りをもう一度留め直してみた。今はクレアも一緒ではないし、せっかくの髪飾りだし。つけられないのはやっぱり悲しいもの。




『さっきはつけれなくてごめんね』



 そう心の中で言いながら、そっと髪飾りを撫でた。




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