第2話 お嬢様は入学する2

 


「はぁ…。学園長先生のお話長かったぁ……」



 入学式を終え、自分のクラスへと移動する。


 教室に入り早速行われたのは自己紹介。わかってはいたけれど、人前で話すことが苦手な私は緊張してしまいあまり上手く喋れなかった。



「では、次の人」


「はいっ。クレア・レイアードと申します」



 ふんわりとした鮮やかなストロベリーブロンドの少女が立ち上がる。ハキハキと話す彼女の声はとても澄んでいて聞きやすかった。


 今日は入学式ということもあり、授業は午前中で終わり。でもソフィアとカイル様はまだ授業中かしら…。このまま寮に戻るのもいいけれど、ちょっとその辺を散策してから帰ってみようかな。


 中庭を通り抜けようと歩いていると、ちょっときつめな猫目の女の子とその取り巻きらしき女の子達とすれ違った。私はとりあえず、サッと簡単な会釈をする。

 だがあちらは、チラっと目線をこっちに向けただけで、何も言わずに通りすきて行った。



(…わぁ。なんだか『悪役令嬢とその取り巻きABC』って感じ…)



 思わず口が緩んでしまう。実は最近ソフィアに勧められた学園ロマンスの小説に夢中になっていたのだ。なので、その中に出てくる人物たちとつい重ねて見てしまってニヤけてしまったのだ。



…………はっと慌てて口元を手で隠す。



 周りをキョロキョロと見渡し誰もいないことを確認して一呼吸。



(いけないいけない。淑女らしく…淑女らしく…)



 さぁ、次はどこへ行こうかな。


 ……あ!あっちに噴水がある。お花も咲いていて綺麗。そこは学園を利用する生徒たち用の休憩場所だった。ベンチに腰掛けると色とりどりの花が風に揺られて優しい香りが漂ってくる。


 穏やかな日差しと、風が吹き抜ける度にサラサラとゆっくりホワイトブロンドの髪が揺れてとても心地いい場所だった。


 ただ、たまに通りかかる生徒がチラッと見てくることがあった。きっと小さいから珍しいとでも思われているのかな。……はぁ、っと思わずため息が出てしまう。


 昨日は入学式や新しいお友達がちゃんとできるか不安と期待でよく眠れなかったし…。さっきは慣れないクラスでの生活で緊張して疲れてしまった。


 そして、この暖かい陽気。



ぽかぽかして眠たくなっちゃうなぁ……。



しばらくぼーっとしていると目の前に影ができた。



「あの、そのままで。……ちょっと失礼します!」



 ……え?っと顔を上げると、青い蝶が二匹ひらひらと飛んでいった。どうやら髪にとまっていたようだ。



「可愛らしかったので、そのままでもいいかなとも思ったんですけど…。虫が苦手な方もいるので…」


「まぁ、わざわざありがとうございます。…あら?あなたは確か同じクラスの……」


「フレジア・アルメイナです」



 黒髪の彼女はソフィアとはまた違った綺麗な顔立ちをしていた。



「私はティアラ・レヴァンですわ。フレジア様は虫が怖くないのですね。お気遣いありがとうございます。助かりましたわ」


「いえ、たいしたことでは。それから私に『様』はいりませんわ」


「では、私のこともそのままお呼びくださいませ!」



 フレジアはとても感じの良い子で喋っている内に私たちはすぐに打ち解けてしまった。クラスでの初めてのお友達…。とても胸がほかほかとして嬉しくなってしまった。


 宿舎の自分の部屋へ戻ると侍女のマリアが待っていた。



「お嬢様っ!!!!帰りが遅かったので心配しました。入学初日ですのに…。マリアはティアラ様がどこかで迷子になっているのではとハラハラしましたよ」


「…もぅ。大丈夫よ?学園の中だし、もし迷ってもきっとちゃんと教えてもらえるわ。それにね、新しいお友達もできたの。ちょっとその子と話していたら遅くなっちゃっただけだから」


「まぁ!そうだったのですねぇ。それはよろしいことで。ですが、今後は遅くなる場合は必ずマリアへ一声かけてくださいね?」


「はぁい」



 私がそういうとマリアは安心したように微笑んだ。



「さて、もうお昼の時間もだいぶ過ぎていますよ。普段着に着替えて食堂へ行きましょう」


「わかったわ。あ、…ねぇマリア、荷物の中にあの髪飾りって入ってたかしら?明日つけていきたいの」



 こういう形の……と説明するとマリアはすぐに理解し、にこにこしながら何度もうなずいて見せた。



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