Lv3.潜り抜けろダンジョンの闇!


 前回までのあらすじを語るぜ!

 じじいに会って抓られて! 頭の中に変な知識をぶち込まれた! 以上だ。

 追記:魔法的なアレで追い出された。



 上層とやらに吹っ飛ばされて体感で一分くらい経った。

 言葉にするまでも無いって? あるんだな〜これが。


 一分も経たない内にモンスターと遭遇したんですわ。


「ブギォ―――ッ!」


 ふっとい棍棒を握りしてた豚頭人間から絶賛逃走中。豚頭人間って呼びにくいから貴様はオークと呼ぶ事にする!

 というわけでオークから逃げている。のっしのっし歩くオークの足はとても遅い、まぁ明らかに重量戦士ですよって感じな横にデカいパワー系の体躯してるしな。


 追いつかれたら簡単に潰されそうである。俺小さいし。信じられるか? あのじいさんの片手に収まるサイズだったんだぜ?


 割とショックでした。


 まあこれから大きくなっていけばヨシ! じいさん、と言うよりか杖の方から貰った知識内容曰く、俺のような種族は捕食で体積を増殖させるとの事。

 肉体を構成する細胞が特殊なので成長速度は早いらしい。

 そして増やしすぎると分裂する。例外として巨大種と呼ばれるタイプは自重で自滅するまで大きくなり続けるそうだが。


 なんで潰れるまで増えるねん、阿呆じゃん。

 ︎︎まあ自滅を免れた個体は更なる成長を遂げるようだが。


 つまり、我々は無性生殖なのだ。

 ︎︎俺にはおにんにんが無かった……。


 まあ将来性に期待するしか無い。

 ︎︎スライムの強みは多種多様な所にあるって杖も教えてくれました!

 こちとら潜在能力無限大のエリートスライムやぞ! いずれは生やしてみせるッ!


 生えたところで相手いないし、そもそも貰った知識ではスライムなんて言う呼び名じゃないらしいが。

 いやもうスライムでええやんって、思うたわ。


 それに結構怖い事も考えついてしまった。

 やれ成長だ進化だって食べ続けたら分裂して兄弟が増えるんだろ? 

 自分の一部が自我を持ちだすって考えるとかなり怖いんですが。

 いや自我は無いのか、正確には自意識を発生させるだけの頭が無い。

 スライムって基本ムシケラレベルの知能しか無いらしいし、ド底辺である。


 じゃあなんで俺はスライムなんやってなる。

 突然変異って言われたのが関係しているのだろうか、あの教師に向いてなさそうなじいさんは教えてくれなかった。


 謎だ……何故スライムなのだ。


 まだドラゴンにチェンジするの諦めてませんからね。


「プギーー!」


 冗談はさておき、オークさんが怒った。

 ︎︎余裕で脳内回想流してる間に痺れを切らしたようだ。

 しかし残念ながら彼はもう疲労困憊で歩けない様子。

 ふふふ、散々逃げ回したからな。しかもつかず離れずのオマケ付きよ、追い掛けるのを諦めきれないような絶妙なバランスを維持したのよ。


 体格もパワーも負けてるけどスピードは勝ってるからね。長所はガンガン活かします。

 もはやスケート選手ばりに氷の上を滑るようなこの華麗なるターン! 追いつかれる気がしないねぇ〜!


 これが例の異能らしい。

 ︎︎魔素放出のアビリティがどうたらと言われてた奴だ。

 ちなみに魔素っていうのは俺の世界で言う元素のひとつに数えられる。それ以上は深く理解出来ませんでした。


 ︎︎分かったことはひとつ。

 知識から薄々察していたが、世の中のスライムはみんなこの速度では無いらしい。

 つまり最初にヌルヌル這っていたのが平均的なスピードだというのだ。遅い、遅すぎる。


 その点アビリティを得た俺はラッキーだろ。

 無意識に発現させていたのか、自覚するまで分からなかったが使っていると地面との接触部から黄金色の粒子が火花のように散っている。

 効果については単純な事しか理解していない。凄く……速いです。


 おいそこ阿呆と思っただろ!

 ゲームみたいに能力の説明文なんて無いんですよ、便利なステイタスプレートが欲しいよ! 無いけど。


 最大速度は試してない。まだまだ加速できる気がする、でもやらないよ。

 今の目的はこのオークさんを食べる事だ。


 食べる事だ。


 大事なことなので二回言った。

 変な意味ではないよ? ちゃんとeatの方です。

 サイズ差は大人と子供どころか大人と野球ボール程離れているけども。

 ︎︎杖の知識と引き換えに人間性を失ったらしい、ということにする。おのれじじい。

 ︎︎いけるイけるよ大丈夫! 食っちゃいなYo! と、俺の隣で悪魔が囁いているのじゃ。



■満塁ホームラン



 オークVSスライムの戦いは熾烈を極めた。


 追い掛けるオーク。逃げるスライム。足の差を理解して諦めようとするもスライムの挑発に乗せられ追い掛けるオーク、逃げるスライム。


 以下、先述の行為をオークが疲れ切るまで続けます。


 奴が弱ったらメインデッシュだぜ!


 そして時は来たァ! 疲労困憊のオーク! まだまだ走れる溌剌スライム!

 スライムの捕食方法は酸性の消化液を利用した吸収だ。サイズ差は歴然として大きいが顔面を覆うくらいはあるんだな〜!


 アビリティ発動! 迸るぜ超加速のオーラッ。

 トドメだオーク! 窒息死させてくれるわァァァあっ!


「ブオオオオオオッッッ!」


 しかし現実は甘くなかった。棍棒をバッターの様に構えるオーク。あら〜右打ちなんですね? そしてトドメとばかりにスパイラルアタックを強行した顔面デッドボール狙いの俺。


 オーク選手振りかぶったァああっ!


 ――ズドンッ!



 うぉぉおおおおおおっッ!?



 Lv1(推定)のスライムにオークは早かったわ。俺は反省した。そしてレベルなんてのはない。


 大体さ、じいさんに潜在能力が〜とか言われて有頂点になってたけど今は色が違うだけの一スライムなわけで、見事に打ち返されて洞窟の中をバウンドしております。

 弾力性に優れた身体なのか全く勢いが無くならずに壁や床天井をポヨンポヨン跳ね返り続けてるようだ。


 よく死なねーもんだと思いますよ、ええ。普通なら棍棒で打ち据えられた時点でゲームオーバーな訳ですがスライム強いね。打撃に強過ぎる。


 ︎︎……?


 ……おかしいな、勢いが衰えない。

 ︎︎何処まで飛ぶの――って。


 アビリティが発動したままでした。


 ︎︎これ外から加わった力も加速するのかよ。


 止まれ止まれと念じ続けたら床にべちゃりと叩きつけられて止まった。

 ︎︎軽やかに着地したかったけど無理です。

 さてと。


 ここは何処?



■スライム、詰み



 しまった迷子だと気づいた頃にはもう遅い。元々初期地点が迷宮内でどの位置になっているのかも知らないし、今更感はある。

 つまり最初から迷子になることは避けられなかったのである。


 あのじいさん本当に出す気あるんですか?

 貰った知識にもダンジョン脱出マニュアルなんて載ってない。終わった。



 黄金スライム、完!


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