第11話 ギルマス殿下と“幸運の担い手”
――総合ギルド最上階、グランドマスターの部屋にて。
“幸福の担い手”パーティの3人からつつがなく密林ダンジョンの報告を受けた後、その報奨の話になったのだが…
「……ほう?ランクアップは受け入れない、と?」
眉間にしわを寄せた
「はい。大変光栄な事ではありますが、俺たち半端者には過ぎたる栄誉ではないかと……。」
キリッとした顔でそう返すミカエル。
“半端者”。
名門商家で貴族籍、学園では魔法剣士として主席卒業、仕官や縁談など引く手数多だったが、冒険者の道を選んだミカエル。
力こそ全て!な竜人らしい身体を持つが、それに反する繊細さと優れた頭脳を持つ、ヒトと竜のハーフ、アンソニー。
エルフの中では忌み嫌われる、隠密や闇魔法適正の高いダークエルフでしかも、古いしきたりがどうにも肌に合わないミカエッラ。
フェンリルは創造神の使いとされるため、その血筋のせいで崇め奉られる事をつまらない、忌まわしいとさえ思い、コボルドとして生きる事にした
それぞれに事情があって今があり、自由を求めているからこその昇格辞退―
というのは実のところ、建前で。
「お前ら……違うだろ?長期遠征依頼や強制依頼で、サティ嬢を見守れないのが無理なんだろ?」
判りやすい嘘は言わないように、と殿下。
「……チッ。なんだ、分かってるじゃないですか。おれにとって、我がパーティにとって、フォルチュナ家にとってもサティ以上に大切な物など存在するとお思いですか?
いいや、ないと自信を持って断言できるっっ!!」
鼻息荒く語るミカエルと、それに大きく頷く“幸福の担い手”パーティ……と、不自然にわさわさ動く、ミカエルのポケット。
恐らく中身はフォルチュナ家の開発した、何度かサティもお焚き上げしている
「あのフォルチュナ家の隠し玉、しかもサティ嬢の半身で、一流の魔法剣士。
建国の英雄と番の暮らした竜人の郷に住まう、知略家の竜人ハーフ。
同じく英雄が終の住処としたエルフの郷で次代の総統として育ち、隠密に長けたダークエルフ。
フェンリルの血を持ち、かつて我が国を創った英雄王と契約を結んでいた、古代種……コボルド?
それが半端者?果たしてどんな意味なのか教えて貰いたい!
はっきり言っておく。……もうお前たちをこれ以上、シルバーランクに留めるのは無理だ。」
「「「えぇーヤダー!」」」
「嫌だーじゃないっ!!
今まで私がどれだけ、周りからの圧力を抑えてきたと……!!
はぁ…。
そもそも、今回は事情が違う。
……サティが転生課に配属された事で、動いてるのがいる。魔法学院でサティと同窓の、あいつの家だ。」
「あぁ!学院時代、サティにうざ絡みしてた初恋拗らせツンツンのアレかぁ?ま〜だギルドうろついてんのかよ?」
「あのストーカー男……まだ諦めてなかったの!?ミカエル、あいつはあんたの舎弟にしたんじゃなかったの?ちゃんと管理なさいよぉ!」
「あの坊っちゃんはきちんと矯正・管理済!多分、家の奴らが空回りしてるだけだと思う。ダクトにも相談済!!」
「……そのダクトからの情報だ。“あの坊っちゃん、婚約者が決まったらしい”とな。
そんな中で、サティ嬢への接触。最後の挨拶なのか、悪あがきなのか…。フォルチュナ家にも来たのだろう?面会依頼の手紙。」
ミカエルの例のポケットから顔を出したシマエナガ風の小鳥が、チィ!と鳴いて何度も頭を縦に振る―が、ギルマス殿下にじっとりと見つめられ、慌てた様にポケットへと消えた。
「うわぁ……。ミカエル、あんたちゃんとこっち側なんでしょうね?ソレ、サティに見られたらワタシまで疑われるじゃないの!見えないようにやんなさいよ!!
あー…。ちょっとフォルチュナ家との今後の契約、考えようかしら…。」
「ゴホンゴホン!と、ともかく。
あいつが絡むとサティにろくな事がない!再教育も兼ねて、おれも、フォルチュナ家からもよくよく見張っておくから!!」
「サティ…。あの子さぁ、アレからうざ絡みされるせいで色々あってから、気配消しスキルが隠密レベルになったんだぜ?アタイが教えてた時は、かくれんぼ程度の可愛らしいもんだったのにさ。今じゃ王家の隠密だって見失うレベルにまで…。
よっぽど、うざかったんだろうなぁ。」
はぁ〜、とため息をつく一同。
「第35回サティの幸せを見守る会、次回は我がザガッティ家の番だ。詳細はその時に詰めようではないか。
それまでお互い、準備を怠らないようにしよう。
それと、サティ強火担の王さんには、くれぐれも宜しく伝えておいてくれ。サティとの契約は絶対に焦らない、だまし討ちはしないよう牽制を頼む。サティが消えかねない事態は避けたい。
……諸君、知っているか?
先日、うちの
“辺境でスローライフが転生者の定番で、ギルドに入れなかったらと思って、そちらへの移住準備もできていた”……と、サティが言っていた事かあるそうだ。
あの人たらしで魔王級の人脈があるサティが本気出したら、私達は手も足も出ないのではないか?」
しん……と静まり返った部屋。
お互いを見て、頷きあった。
全員ですっ、と円陣を組む。
手を伸ばし、中央で重ねて……。
「全てはサティの平穏の為に!!」
ファイトーー!!
謎の使命感を見せながら、高く腕を上げるのだった。
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