第10話 1つの事に熱中すると、周りを遮断しちゃうタイプ(物理)


 総合ギルド二階、奥の部屋。


 落ち着いた色調の内装、品の良い調度品。そして、機密事項に十分配慮可能な魔導具を備えた、ゆったりとした広さの一室。


 ありがたい事に、私をご指名で鑑定の予約をして下さる方々に、心地よく過ごして頂ける様に設営したこの応接室は、いつもお得意様をお迎えする場所――通称、VIP鑑定部屋である。



 そこに現在、みっちりとひとつのソファに集まる、愉快な仲間幸福の担い手パーティたち!

 わーい!なかよし〜!


 「……いや、あの。

 私の前にも、横にも、ソファーあるので……もっと伸び伸び座ってください。私の隣なんぞを競い合って集まらないでください。

 …正直、狭くて鑑定しづらいです。」


 突然の人工密度の高さに、思わず敬語。


 「だってサティ、一人だとすぐ消えちゃうじゃん!また失踪事件になっちゃう。

 だから〜、“サティ探知コボルド《犬》”の僕が、しっかりとくっついてないと!

 ほいっと〜な!」

 と言って子犬サイズに獣化、私の膝で丸くなる王さん。


 「うっ…。いつぞやの、私の気配消しで行方不明事件の際は大変お世話になりました…。あの、お願いだから、その、探知犬的な名乗りは勘弁していただけないでしょうか…。

 っていうか、消えないから!

 アレはなんか不審な感じのものが居たりあったりした故のアレだし、そもそもフォルチュナ家監修なこの部屋、安全対策おかしいレベルだから!普通でお願い…」

 「えぇ〜?いっしょ、だめ……?」


 王さんは かぶせ気味に はつげん!

 うるうるおめめ こうげき!


 「……いえ特に問題無いデスね私の膝でよろしければいくらでもドウゾそして撫でさせていただければ幸いです」


 サティの きゅうしょにあたった!

 こうかは ばつぐんだ!!!

 

 「キャフッ!サティったら相変わらずチョロすぎだよ〜」

 嬉しそうに私の手をカジカジ甘噛みする王さん。さぁどうぞ好きなだけお召し上がりください。

 はぁ〜…子犬サイズモフモフ様の上目遣いに抗える力など、私にあるはずがないのだ。あーもう何このふわふわやわらかさんはナデナデするしか無かろうそれしかない。

 ……しかし、相変わらず大きさ形態自由自在なのね。


 「ウフッ、じゃあワタシはぁ、こっち♡」

 利き手側はワタシが守るわぁ〜、と私に身を寄せるアンソニーさん。あああサラサラお御髪が!逞しい二の腕が!ファンサービスですねありがとうございます大丈夫鼻血は出てないハズ。


 「じゃあこっちはアタシだなっ!」

 と、逆側に座り腕を組んでくるミカエッラさん。しなやかすべすべ腕!女子はこう在りたいですね姐さんっ!


 「ああっ!?ぐうううぅ……!!」

 その周りをあたふたと動く、涙目のミカ兄。

 あー。

 べったりしない約束守るぜ→でも近くに→ポジション取りに負けた!?ですね。

 ざーんねーん(棒読み)。


 それをニヤニヤ笑って見ているアンさん達。わぁ…まだギルドのロビーで私を拘束した騒ぎの罰、続いてるのね。

 敗者ミカ兄は私の、テーブルを挟んだ向かいのソファに、萎れて座ったのだった。


 そしてこちらを、じっとりと、じっとりと、見つめている……。

 ▶コマンド?


 「……さ、“サティの好きそうな、いっぱい見つけたから、楽しみにしててくれ!”だっけ?

 ……見せてくれる?」

 ▶はなす

  むしする

  むりなんだいきらーぱす

  にげる

  

 ……あんまりにも絶望の目を向けられて、ミカ兄に思わず助け舟。

 密林ダンジョンのドロップ品、手紙でめっちゃ煽り文句いっぱいに綴ってあったから、実はその成果に期待してたりする。

 バナナの他は、さて?

 

 「まままま任せとけーーー!!!」

 ▶ミカエルは かくせいした!


 目をまさにキュピーン!と光らせて、複数のマジックバッグに手を突っ込むミカ兄。

 そこからまぁ、出てくる出てくる戦利品。気がつけば私の前のテーブルに、山盛り。


 「えー……っと……?」

 何だか見覚えあるものが巨大化してるような形状だったり、食欲減退な南国っぽい極彩色だったり、トゲトゲ毒々しい感じだったり…。

 なんだか…物騒?

 思わず眉をひそめてしまった。


 「あっ、あのね!!見た目アレな感じだけど、鑑定で見た限りは多分サティが言ってたやつらだと思う!!」

 私の反応の悪さに、慌ててミカ兄から注釈が入る。


 「とりあえず、簡易鑑定魔導具で出た古代語の表記そのまま、サティのふせんに書いて貼ったよ!

 相変わらず難解でキツかったけど、ミカエッラと二人で頑張った!見て!!

 古代語解るサティなら、詳細部分だけ鑑定すれば事足りるし、魔力切れにならない…と思う!」

 

 魔法効果的なアレのついた便利な付箋……そんなやらかしもありましたね(遠い目)。

 えーと、古代語…って、うちの図書館?奥にあった、ご先祖様の書物のアレだ。

 恐らく転生者であろう、いわゆる建国の英雄の遺した伝承の、ギャルギャルしい?丸文字絵文字が山盛りのやつ……。

 

 これ読める!な〜んて得意げにミカ兄に教えてた当時の私よ、残念なお知らせです。貴方が唯一勝機を感じたジャンルは、鑑定スキルじゃなくて、どうやら転生的な事みたいですよ…。


 「このダンジョン産簡易鑑定魔道具、鑑定結果は全部古代語表記なんだな。うちの婆さま連中から押しつ…教わったのが初めて役に立ったぜ。

 でも書き写すのは、キツかった……。」

 次の機会とかはちょっと勘弁かな…?と苦笑いのミィさん。

 古代語ご存知なのは、さすがエルフ!

 しかし、褐色エルフの里で語り継がれる古代語ギャル文字……。

 いや、深く考えてはいけない。


 「書くのはミカエルとミカエッラに任せて、僕とアンソニーはふせん貼るのを頑張ったよ!」

 「あの付箋、結構魔力持ってかれるわねぇ…。でも新しい物に出会った時の、サティのキラキラ笑顔を期待して頑張ったわ〜。」

 王さんの得意げな笑顔と、アンさんの慈愛の微笑みったらブライスレス……!


「「「「だから、遠慮なく鑑定やっちゃって、いいからね(な)(ぞ)!」」」」


 皆さん声を揃えてニッコリ。

 そっか、このメンバーなら忖度いらないね!万一魔力切れした際は介抱お願いします!


 それでは早速、拝見してみますと……!

 「ふぁあああ……」


 ……そう、カカオ豆さんってこんな紫なのね。いやはや新規入手先は本当ありがたいわー高濃度カカオとかバンバン作って欲しいわー。

 この、ショッキングピンクのマンゴーをmen go!とか言うな誰得だ?

 あーこれモンキーバナナって事ねーヤンキー座りした小猿からドロップとか設定した奴ぇ……?

 π?パイ…ナプ…w?…ル、か!そのままちぎって食べられるやつ?スナックパインだっけいいわコレ

 緑黄ピンクしましま色コーヒー豆…今あるのとは違う種類タイプ?イルガチャピンて何?色々大丈夫?

 あっスイカとメロンが見た目と味が逆なの?!

 トゲトゲ…サボカド?…アボカドーーー!!どなたかわさび醤油をお持ちではございませんかっ?!

 “タバコ的なアレ(毒)”って身も蓋もないけどまぁ確かに…。

 ココナツー(椰子の実)?コレポケ○ン的なモンスターの頭からむしり取るって、マ?

 真っ青サトウキビ?白砂糖ならぬ青砂糖になる?今流通してる砂糖って、サトウカエデ的な木から取ってるのが主流だっけ??えっ、権利関係ヤバい…?


 なんか名前が地球あっちっぽいの何故?!ああ、とりあえず私の記憶で補完してるからか。じゃあこれ、最上級の心眼鑑定持ちじゃなきゃ判らないやつじゃん。

 えー……。じゃあこれ、どうしたらいいの……?命名するとか絶対嫌だけど。


 とりあえずまぁ古代語そのままでレポート書いて、うん、丸投げかなー……。

 まぁ殿下なら上手い事やって下さるでしょうきっと多分大丈夫!!


 よし!じゃあ残りも全力で…

 ああー!!!これアレじゃん!!ナタデココ的なキャッサバ芋的な……タピれるんじゃない?!

 ちょっと待ってこっちは……

 おおっ?コレ……?!

  ・

  ・

  ・

  ・


 ★★★☆


 「サティ?サティー??サチ!幸子!さちこ!さっちゃーーーん!?

 ……ああ、駄目だもう聞こえてない。」


 「あらぁ〜!サティの“他は何も聞こえません”モード久しぶりに見たわ〜。

 よしよし、鑑定時の障壁、上手にできてる。昔は次元隔離レベルだったけど、なめらかになったわね〜!」


 「うん、いつ見てもスゲーな、サティの障壁。触ってもすり抜けるみたいに触れないのな。」


 「くふふ。障壁の中入ってみたかったんだ〜♡すごく心地良い魔力♪お膝で寝ちゃいそう!」


 見る人が見ればはっきり判る、透明なベールのような物に包まれながら、戦利品ドロップ品の鑑定をしているサティ。

 ブツブツ言いながら凄い速度でその詳細を手元の鑑定用冊子に、しているかのように見える。

 それを温かく?見守る四人幸運の担い手


 「……多分コレ、しばらく終わんないだろうから、先に三人でギルマスに報告行ってきたら?僕がこのまま膝に乗ってるから大丈夫だよ!魔力切れなんかさせないし、いざとなったら本当の大きさに戻るし。」


 「「「王さん、ギルマス殿下への報告が面倒くさいんだね(でしょ)(だろ)?」」」


 「あはは!だってあの人しつこいんだも〜ん!もう僕と王家は契約切れなの!

 それに、サティの護衛は障壁内にいる僕が適任でしょ〜?初めての物を本気鑑定したら、絶対こうなると思ってたんだよね〜!

 まぁ、君たちはさっさと面倒くさいこと終わらせて、早く帰って来て!」


 「ふぅー……。まぁ、仕方無いか…。」


 「ミカ、さっさとやっつけて戻ろうぜ」


 「そうねぇ。どうせ、ギルマス殿下は報告後こっちに来ちゃうだろうから、その前にやっちゃった方が安心でしょ?まだ殿下はイマイチ把握してないみたいだしぃ〜。」


 「えっ!?おれの可愛いサティの鑑定が特別なのは当たり前じゃないか!殿下、天然が悪化してる!?

 じゃあもうギルド見限ってフォルチュナ家で鑑定!でも帰って来てくれない……。」


 「もう〜いい加減にしてよ拗らせシスコン〜。たぶん殿下ならきっと上手い事やってくれるよ大丈夫だいじょぶ!

 ほら、さっさと行ってきて〜!!」


 「「承知〜!」」


 「サティ〜!!すぐ帰って来るからなぁ〜!!!」


 ミカエルを引きずりながら、アンソニーとミカエッラは部屋を後にするのだった。



 

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