第9話 “幸福の担い手”パーティ

 


 転生に気がついたせいでなんか最近色々あるけど、とりあえずなんとかやってます多分。

 今日も、いい天気ですね……。



 本日は、私の担当する重点育成者シーダが、ギルド主催の実地採取講習に参加する日。

 早朝に出発するので、それを見送る為に早番シフト(そうです早番遅番という勤務システムありました…これは私の転生知識やらかしじゃないぞ!)で勤務しておりました。

 いつもは受付奥、鑑定相談課の方で色々やっているのですが、シーダのお見送りの為に滅多に来ない正面入口におりまして。

 気をつけて行ってらっしゃ〜い、行ってきまーす!と和やかに手を振りあって。

 さぁ、今日の鑑定予約の準備をと、振り向いた所で


 「サティーーーーーーー!!!!!!」


 拘束されました。

 


 ざわ… ざわ…


  「なぁ、アレって……」

  「しっ!“幸運の…”に聞こえちまうぞ!巻き込まれてぇのかよバカ」

  「ミカエル様ってそういう好み……」

  「えっ、妹分だって噂……」


 沢山の人が、こっち見てヒソヒソしてやがる…!

 違いますよ皆さん、ただのシスコンなだけなんです。かなりヤバいだけです。


 ……ヤメテ、ミナイデ……。


 ……気が遠くなってきたが、ありのまま、今、起こっている事を確認してみよう。

 私は今、王都総合ギルドの、受付前ロビーの、ど真ん中で、美形兄に、抱き締め(拘束)られながら、冒険者や来場者たちギャラリーに、遠巻きにされている!


 無理寄りの無理!


 くっ、ミカ兄に拘束されていると気配消して逃げられない……!!

 あれか、双子あるあるで、お互いの存在が分かる的なヤーツーか?ぐぬぬ……。


 「こないだの帰省みんな嬉しすぎて張り切っちゃって派手でごめんねすぐ帰っちゃってすごくすごく寂しかったけどやっと会えた手紙嬉しかったありがとすごい本物はやっぱ最高スァッッティぃいいーー♡♡!!」


 ……頑張れ諦めるな私きっと多分誰か助けが来る。


 ダクトさんは……駄目だ今日は採取講習の引率で西の森だ!シーダが行くからって、さっきの集団に加わって下さってるんだった。

 ミリー受付業務筆頭は……昨日のダクトさんと殿下の、プロポーズ話?の暴露でラブラブファイヤーしてたからアレだ、

 『ゆうべは おたのしみでしたね』

のやつだ!朝から見てないもんな…。


 救援は期待できない。しかし下手に自力で抵抗すると多分悪化するね、この拘束。

 ……嫌だ小さい頃の持ち運ばれた記憶が私を蝕んでいく………。


 よし!楽しい事を考えよう!

 でっかいシベリアン・ハスキーにタックルされて、めちゃめちゃ懐かれたらこんな感じだろうか?

 いや、お犬様はモフモフで癒やされるけど、この状態……呪詛のような「サティ成分補給補給補給♡」と共にぎゅうぎゅうされるのは、新手の精神修行なのでは…?

 よし、SANちぇぇぇっく!


 駄目だ。上手く現実から逃避できない。早くここから消えてなくなりたい……


 白目な私。そこに一陣の風。


 「暴走してんじゃねーよっ!」

 ガッ!と鈍い音がして、私を拘束していたものが無くなった。


 「ってぇぇぇ!!!」


 「お前、サティとの約束忘れんな!捨てられちまうぞ?!」


 痛そうに涙目上目遣いで、頭を抱えてしゃがみ込むミカ兄。

 それを見下ろしながら叱りつける、スレンダーで褐色の肌の、長身美人エルフ。

 彼女は愚兄のパーティメンバーで、シーフ職のミカエッラさんだー!

 神 は い た !


 「ミカエッラ、それくらいにしておやり。……サティちゃん、大丈夫?」


 そして、麗しい低音ボイスでさりげなーく、ミカ兄から距離を取れるよう誘導し避難させてくれたのは、重戦士(盾役)職の竜人ハーフ、アンソニーさんっ!!

 彼は、白銀の長い髪に山羊バフォメットの如く立派な巻き角、シルバーの肩当てに漆黒の外套…どちらの魔王様ラスボス?あっ、○フィ○スさまですね?と問いかけたくなる麗しさ。しかしお話すると大変中性的という、ギャップが素敵な眉目秀麗イケおじ……いけオネェ?様なのだ!属性特盛あざーす!!


 「あ、ありがとうございます……。」


 アンソニーさんはニコッと笑顔で、私の頭をポンポンと撫でる。ナデポ頂きました!

 アンさん(幼児の頃アンソニーと呼べずこうなった)はいつもさりげな〜く紳士ムーブで素敵なので、柄にもなくモジモジしちゃうわ私。


 「さ、サティ、ごめん。捨てないで……。」

 涙目で、恐る恐る私を見るミカ兄。


 「っ……もう、その言い方!!」

 公衆の面前で捨てないでとか言わないで!!


 「サティ、ごめん。本当はギルマス経由でそっと呼び出すつもりだったのに、こいつ“サティがいる!”とか急に飛んで行きやがったから取り逃がして……。」

 もう逃さないから安心して!と、ミカ兄の首根っこを掴んでるミカエッラ――ミィさん。


 「ミィさん、アンさん。いつも本当にありがとうございます。…いつも兄がご迷惑おかけしております。」


 深々と頭を下げる。困った顔のミカ兄を囲んで、ミィさんとアンさんは嬉しそうに笑った。


 実はこのお二人とは、私がまだ赤子の時からお世話になっているらしい。私に護衛を!と張り切った両親がコネクション(何それ怖い)を総動員してお願いしたそうで。

 しかし、その契約は早々に解消される事となる。何故かと言うと、私が彼?彼女?達にものすごく懐いてしまったからだ。護衛にジェラシィーって、何じゃそりゃ…。


 なお、決定打は私の「あんとにー(アンソニー)たんとけっこんしゅる!」発言だった模様。イケオジは前世から私の生きる糧でした。そんな発言全く憶えてないけど、嗜好が魂に刷り込まれておるという事なのか…?

 もっとも、アンさんにはその頃からパートナーがいましたけどもね。ええ、告って秒で失恋ですが?何か問題でも?(逆ギレ)


 まぁ専属ではなくなったけど、フォルチュナ家からの依頼はよく受けて下さって、今やミカ兄のパーティメンバーで、暴走処理班をして下さっております。


 「ホントにごめんなさいね。こう見えて普段はリーダーらしくちゃんとしてるのよ?サティが絡むと途端にダメになるけど。

 それにしても…大〜きくなったわねぇ、サティちゃぁん。」

 こーんなにちいちゃくって可愛かった子が、今はもう立派なレディになって……としみじみ、うるうるお目々。うっすら染まる頬を両手で抑えながら私を見つめるアンさん。大人の色気ありがとうございます。

 “ちいちゃい”を、親指と人差し指の間3センチくらいしか広げないのはお約束ですね。

 

 「今でもはっきりと思い出しちゃう。サティが初めておはなしできた言葉は、ワタシの名前だったのよねぇ!拙い感じで“あんたじぃー”って♡可愛くって感激したわぁ〜。」


 「デカイ図体で大抵の子供に怖かられるアンソニーに、サティはいつもキッラキラの笑顔だったよなぁ。蓮っ葉で褐色なアタシにも一生懸命、あんたじーとか、わんたじーとか言っててさ。サティ最高に可愛かった…。」


 「そうなんですね…?」

 キャッキャウフフ盛り上がるかつての私専属護衛お守りチーム。

 この話も何回目かな?会うたびに熱弁してくれる…。いや、私の話で嬉しそうなイケオネエと凛々しい褐色エルフ姉さまだなんて、ご褒美以外何物でもないですけどもネ。


 ……うん??ちょっと待って。

 それって私、もしかして、“アンソニー”じゃなくて、“ファンタジー”って言ってた…?

 エルフとか竜人ハーフとか尻尾とか鱗とか長寿とか!ファンタジィー!に興味津々で叫んでた、というオチが透けて見えた気が…?

 えっ、私はその頃から既に無意識で前世知識が漏れ出てた的な…?



 「アンソニー!おれは認めないぞ!

 おれはサティと産まれた時からずっと一緒なんだ!だから多分本当はおれが一番に呼ばれてたはずだ!そしてずっと一緒…すなわち結婚するのはおれとだ!」

 混乱してきた私をよそに、エキサイトしてぐぬぬ…。と唸るミカ兄。

 

 いや、私達血縁だから。双子だから。勢いで意味分かんないこと言わないで。

 ……まだ私の『結婚しゅる』宣言を引きずってんのね…。


 「なぁ〜に言ってんのよこの重度ブラコン拗らせて避けられてるオトコは!!きちんと出来るって言うからサティとの接触を許したのにこの体たらく!!もうもうもう!!しっかりなさいっ!」

 噛み付いてきたミカ兄を素早く拘束、両こめかみグリグリの刑がとうとう執行されております……。ああ、小さい頃よく見たなコレ、懐かしい。


 「いででででで解りましたわかりました勘弁して……」

 再び涙目、さらにジタバタミカ兄。えーと、ぐりぐりされたままぶら下がってますけど!?


 「あ、あの…今日のはなんか激しいけどあれ大丈夫…?」

 流石にアレは…なのでミィさんに進言。


 「大丈夫大丈夫〜!最近あいつ、浮遊スキルで上手く逃げたりするからパワーアップしたんだよ!よーし!逃げ出さないようにアタシも加勢しーようっと!」

 アホミカ!アタシからはこちょこちょ攻撃だ!!と言いながら、嬉々として参加するミィさん。


 「えーっと……?」

 私を置いて盛り上がる、“幸福の担い手”の派手なお三方。わちゃわちゃで収拾つかなくなってきたネ!

 ……これ、今ならそっと私が消えてもバレないんじゃない?と、そこから後ずさり。


 …しかし、私の制服スカート裾がクイッと控えめに引っぱられる。

 目線を下げれば、そこにはもう一人のパーティメンバー、小柄で栗毛の髪の犬耳少年―コボルト系獣人のワンさんが、ギルドマスターである殿下を連れてこちらを見てた。


 「サティ久しぶりぃ!元気そうだねっ!

 ね、話終わった?とりあえずギルマス連れてきたよ〜!」

 密林ダンジョンめっちゃ暑かったんだ〜!もう疲れたからしばらく休みたーい!と、ニコニコ笑顔でふさふさ尻尾をパタパタ。

 常にマイペースなワンさん。この見た目でこのパーティの最年長なのよね……。


 「ゴホン。――フォルチュナ嬢、兄君パーティ“幸運の担い手”の出迎えご苦労!探索依頼の報告は、私の部屋で聞こう。

 …見世物ではないぞ!解散!!」


 パンパン!と手を叩いて、周囲の野次馬を追い払う殿下ギルマス。さすが王族、覇気がありますね。


 「すいませんお騒がせ致しました……。」

 

 「なに、サチコ嬢の事はマイハニーからよくよく頼まれたからな!……お陰で、昨日は夢のような時を過ごせた。」

 蕩けるような目で虚空を見つめる殿下。


 「アアハイソウデスカヨカッタデス」

 知り合いのラブラブ過ぎる話はもうホントいたたまれないよね……。


 「ねーねー鑑定部屋予約してあったんだけどどうするー?もう行っていい?いいよね?」

 王さんがわちゃわちゃしてた3人を引っ張って来てる!流石……むしろ王さんの方がリーダー向いてるんじゃない?


 「ギルマス、報告は鑑定の後でも?」

 尊敬の目で王さんを見てたら、対抗するかのようにキリッとして進言するミカ兄。お外用のお顔ですね?

 対外的には、私の前でも頑張ってそれでお願いしたいわ…。


 「うむ、とりあえずいつもの鑑定部屋でサティの査定後、私の執務室まで来なさい。……今後の摺り合わせもあるしな。」

 私をジッと見つめたあと、後ろ手を振りながら殿下は去って行くのでした。


 ……えっ、今後の摺り合わせって、私の事!?



 

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