第6話 転生課へ至る道程①

 

 あの突入劇?の後。


 ここ(鑑定室)じゃ落ち着かないってことで、総合ギルド最上階にある、グランドマスターの部屋に。防音その他ばっちりだしね。


 で、まぁ、私の転生課配属の経緯とか、何でダクトさんが上司として引っ張られて来たのかという話に…なったんだけど。

 なったんだけど、ね?!



 「フォルチュナ家、王家、諸兄など、関係各所に相談した結果、サティ嬢を任せられるのは、ダクトが一番適任という結論が出た。以上だ!」


 以上だ!(キラキラ笑顔)って何なの王弟殿下ぁぁああ!!

 素敵…!ってうっとり顔で腕を絡めて、殿下見つめてんじゃないっつーの姉御ぉぉおおお!


 「うふっ。サティはダクトさん大好きだもの!良かったわねっ?」

 来たな、姉御のチェシャ猫笑顔!!


 「サチコ…、このお二人は随分君を可愛がっているんだな…?」

 可愛そうなものを見る目でわたしを見るダクトさん。ええ、そうです。これが通常運転ですね…。


 はぁ〜……。と、深いため息一つ。

 細い目をさらに細めて、お二人様をじーっと見つめて、ニッコリしてあげました。


 あれあれ?イチャイチャしてたのに、急にビクッとして顔色悪いですね?どうしたのかな?


 ま、とりあえず、香り高いカフィ(珈琲)を味わいながら、窓の外、王都の街並みを眺める。


 ああ…今日もいいお天気ですね…。



 「……サティ嬢、そろそろいつものツッコミと、詳細を聞いてくれないだろうか…?」


 王弟殿下の声、何か聞いた事あるのよね〜?某スペースオペラ的な、英雄?なんだっけ金髪の…声優さんの名前出てこないな〜。


 「サティ……戻って来て…。」


 ミリー先輩はアレよ、月に代わってなんちゃらするラビットの声風味よね。


 「……サチコ、ナバーバ食うか?」


 バナナ、好きだったなぁ。

 そう、皮が硬くて剥けなかったから、こんな風におとうさんが剥いてから渡してくれて。お父さん、いつからこんなにイケオジに……ってダクトさん!


 「ダクトさんは、味方だと信じていいですよね?!」


 「もちろん!だからこそ転生課の話を受けたんだ。サチコは俺の娘同然なんだからな。」

 よしよしと、頭を撫でられた。

 

 「ダクトさん…頼りにしてます!」

 そしてバナ…ナーババ、いただきます。


 「サティ…涙目でナーババをほおばって、可愛いわぁ…私も餌付けしたいぃ~」

 先輩…私の扱いは相変わらずペット枠なんですね…。


 「サティ嬢を愛でる、麗しき私の女神…ああ、その眼差しを私にも…!」

「もぅ♡だぁ〜りんったらぁ。恥ずかしいゎ…。」

「恥ずかしがる君…誰にも見せたくないな。こうして私の腕の中で、ずっと囲い込んでいたい。そんな魅力的な顔は、僕にしか見せてはいけないよ?いいね?」


 そんな…私なんて…。

 まだ君は判らない?僕が狂おしい程に焦がれる君の魅力に…じゃあ僕がじっくり教えてあげる…

 いゃん!こんなところで…

 ……♡……♡♡♡


 ……ああ、現実逃避もさせてくれないのね、この万年新婚夫婦!

 しっかりナバーバを頂いてから(巨大だから、半分どころか3分の1食べたらもう無理だった)、隙あらばイチャつきはじめるヤンデレ夫妻をじと目で見る。


「あー。これが噂の、どこでも始まる愛の劇場か…」

 引きつった顔で二人を見ているダクトさん。そうです、コレが魔法学院時代終盤に繰り広げられたやつです!!!けっ。


 とても面倒だけど、聞くしかないか…。


 「……それで?お二人はどんな暗躍をなされたんでしょうか?」

 

 「ん?ああ、」


 「そうね。」


 イチャイチャから一転、真面目にこちらに向かって居住まいを正すお二人。どこまで演技なの…。



 「……つまり、総合ギルド職員試験の出願申請書類で、私が転生してる可能性が高いと、フォルチュナ家によって、情報を、流されていた、と、いう、訳ですね?」


 知らぬは本人ばかりなり、と。


 えっ?じゃあ、“薄々転生知識ありました!キリッ!”なんてご注進の手紙、赤っ恥?むしろ囲い込みの罠に嵌りに行っただけ?!

 ……白目むいて倒れても、いいでしょうか?


 「言い方が悪いな…。君の家―フォルチュナ家からの推薦書は、いかに君が有能で魅力溢れる逸材か、怒涛の勢いで書き連ねてあったぞ?愛されている、という事だ。」

 

 「はぁ、ソウデスカ…。」

 安定の、暴走実家という事は理解したくないけど把握しました。


 「まぁ、我が妻に対する私の愛と比べてしまうと…まぁ何というか…良い勝負にはなるかな。ねぇ、ミリー?」

 「うふふ。そうね…♡」

 膝の上にミリー先輩を乗せて見つめ合うお二人。私をダシにしてイチャイチャするの、ホントやめて下さい。


 「それにね、サティ。」

 真剣な顔でこちらを向く、ミリー先輩。


 「貴方はその気配消し…今は進化して隠密スキルかしら?そのおかげで学院時代はうまく躱していたけど、ギルド職員になってからは色々あったでしょ?知らない貴族からの執拗なアプローチとか…。貴方じゃなかったら、多分何処かで拉致監禁になってたと思うわ!!」


 「あー…、ハイ?」

 謎の手紙とか面会依頼とか出待ちとか、例によって全部実家のコネとか兄達ファン関係かと思って家族にスルーパスしてた…。アレ、私狙いもあったの?ホントに??


「勘のいい者は、君の転生を疑っていたのではないかな。それで、フォルチュナ家からの嘆願脅しと、私の愛する妻の憂いを払う為にもサティ嬢には王家から影をつける話になった。しかしその、秀逸な隠密スキルに完全に対応できる者は、王の影くらいしか居なくてだな…。」

 すいません、隠密スキル垂れ流しで…。


 「そこで、ダクトだ。」

 隣に座るダクトさんが、こちらを見る。


 「実はダクトと私は、まぁ色々あって、幼馴染みだ。」

 

 ……えっ?

 思わず、得意げな殿下と困惑顔のダクトさんを交互に見てしまった。お二人のキャラクターがよく解る反応ですね。殿下ェ……。


 「ダクトがサティと面と向かって話したのは恐らく魔法学院の頃からだろうが、実はその前から色々お願いしていた。まぁ、ダクトにも事情があって、フォルチュナ家と繋がりがあった方が都合が良かったのもあるのだが。」


 ダクトさんの事情?

 ……ニコニコしているミリー先輩を見てると、聞かない方が平和な気がする。


 「サチコ、なんだか嗅ぎ回っていたみたいで申し訳無い。もちろん任務という面もあったが、それ以上に、君の成長を見守る日々は楽しかった。この役割を得ることができて、私は幸せ者だと思っている。」

 申し訳無さそうに、でも少し誇らしげにそう言うダクトさん。


 「あ、ありがとうございます…。とりあえず、もう謝るのはやめて欲しいです、私、ダクトさんは第二のお父さんだと思ってお慕いしているんですから……」

 なんだか恥ずかしいけど、引け目を感じて欲しくないから告白?しておこう。まぁ、ダクトさんなら大抵の事は許してしまいそうだけど。

 ……そういう人選か。上層部、怖っ。


 また二人でペコペコ頭を下げそうな雰囲気を察してか、殿下がパン!と大きく手を叩いた。

 

 「とりあえず、謝罪合戦は終わりという事でいいな?

 ……嗅ぎまわるも何も、まぁ、成人の儀の判定、サティ嬢も受けたであろう?あの情報は、有識者に共有されているぞ。」


 あ〜、そうでしたね。

 私の教え子、シーダもそんな感じで、ここ《ギルド》で保護してるしね……。



 

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