第3話 昇進という囲い込み
ギルド宿舎の自室で、お手紙をしたためる。もちろん、魔力で筆記する機密用羊皮紙で。
「…と、いう書き付けの文言の解析時に…、お恥ずかしながら…口内を噛んで、恐らくはその痛みにより…、尚、その情報程度は稚拙であり…、、と、ここにご報告、またこの事象をお委ねすることと同時に、お心の中にだけ留めて頂けると…信じております、と。これでいいかな。」
報告・連絡・相談は社会人の基本。
なので、信頼の置ける上司に、私の薄ーい転生記憶について、お手紙という形でお話を通しておくことにしました。
何かご迷惑おかけするかも知れないし、役立つかも知れないし、また、明文化されてない決まりに抵触したらヤバイのかな〜と感じたので。
筋を通しておこう!ということですね。
私の上司様は、実は魔法学院からのお付き合い。キラキラハイスペック高位貴族な姉御に、なんか色々あって可愛がって頂けた。まぁ、シスコン兄達の引き合わせもあったけど。
姉御はゴージャスでファビュラスなのに実は…好きな方にだけツンデレで。大変可愛らしいお方だった。
しかしまぁ婚約者様が、見目も麗しく地位もあり、しかも文武両道という“完全無欠清涼の君”!なくせに、姉御に対してだけ、なんだかポンコツでね…。
ワタシ、ジレジレ両片思いって見ていてイライラしてしまうタイプなんです。
即日、兄達コネクションを使って関係者各所に根回し。お二人を温かく見守る会の結成。さらには各種作戦を計画していたのだけど…。
拗れすぎの結果、お二人は中庭で内々に、「婚約解消しよう」だなんで冷静にお話しをおっ始めやがったのでございます。
なぜかそこに遭遇した私。
ああ、お二人に板挟みになった思い出が一気に蘇る…。
「どうして私、あの方の前ではうまくお話しできないの…グスっ…さ、サティは先程あの方と何をお話ししてたの?あんなに必死なご様子は見た事がないわ…どうして…」
(姉御のこと根掘り葉掘り聞かれてたんだよ、あのヘタレに!!)
「なぁサティ嬢、先程私の天使は何かあったのか?目元が少し紅いようにも見えたのだ…。まさか、誰ぞが私の天使を悲しませたのか!?こうしてはいられない!影を手配!」
(恥ずかしくてツンデレしちゃうのと、貴方様が姉御の前では照れて頭真っ白で真顔という態度だから嫌われたかもって凹んでんだよ犯人見たかったら鏡見やがれコノヤロウ)
ジレジレイライラシチュエーションが、走馬灯のように巡る…
…そもそもなぜ、ワタシが巻き込まれている?
さらには、目立つの死ぬほど嫌な私が、関わるとクッソ面倒な兄達のコネまで使ってあなたがたの仲を取り持つ為に駆けずり回ってんのに、2人で泣きそうな顔で、こそこそ、婚約解消…?
なんでさっちゃんのいうこと、りかいしてくれないん?(ほ○るの墓風に)
私は、キ レ た 。
その場に乗り込み、兄謹製、“心の内何でもおはなししちゃいま〜すZ”の粉を二人にぶちまけてやった。
「ああそうですか〜婚約解消ですか。お二人はもう二度と親しくお話しをすることもなく縁を切り、他のお相手と、情を交わす、という事で、宜しいんですね!?」
って煽ったら、あらまぁ始まる愛の劇場…。Oh…。後は従者の皆さんにお任せしてトンズラしました。
カッとなってやった。後悔はしていない。
…我に返ってから、あっ不敬罪で投獄かな、と震えて荷造りしたけど。
まあその後お二人はめでたくラブラブになり、私もお咎め無しと相成りました。
その時押し付けられた貸し1、ここで使ってみようと思います。
そんなわけで、姉御宛に魔鳥便(親展書類は魔法の鳥?鷹?さんで送ります…そうなのファンタジー!)を出しました。
ふーすっきり。これで貸し借りなしでお願いします。
☆
で。
数日後、個室に呼ばれて。
「サチコ・フォルチュナ!あなた明日から今の業務と兼務で、転生課主任補佐に任命!よろしくね!」
麗しの笑顔でニッコリ。優雅に、白魚のようなお手々ヒラヒラ。
いつもお美しい、受付業務筆頭の頼れる姐御、ミルフェリア・ザガッティ公爵夫人様が、ワタクシめにそう、おっしゃいました。
「…はぃ?」
転生課ってあの、上位貴族と実力派幹部で組織してるとゆー噂の、幻の機密組織ですか?本当にあるの?
えっ?ワタシ、薄々の前世記憶で、ほぼ家出してギルド勤めの、地味顔受付補佐なんですけど…?
「はい、このブローチが転生課の証よ。必ず制服の襟裏に付けてね。左側よ。
これ魔道具になってるから、魔石に魔力を入れて本人登録しておいて。後で入室登録とか、個人認証とかで使うから。」
なんか真珠くらいの、無色透明な魔石が嵌まったブローチ渡されました?
「いや、あの、私ただ、先輩にだけ一応報告しておいた方がいいかな〜と思っただけでして…」
おや?なんか背筋ヒヤッとしたよ、ヤバイこんな大きな話になるなんて想定外デス!!
「うふっ。もぉーあなた、何でこんなに重ぉ〜い話が私で留まると思ったのよ〜!総合マスター行きに決まってるじゃな〜い。」
鈴を転がすような声で優雅に笑われた…どんどん笑みが深まってますよ先輩?!
「えっ、だってミリー先輩、これで貸し借りなしねって…力になるわってお返事くれたじゃないですか!」
ひ、冷や汗止まらない…
「やぁ〜ん、大好きなサティからのお願いなんだから、全力で囲い込むに決まってるじゃないのぉ〜。」
先輩はとうとう、ニヤッと、チェシャ猫みたいな笑顔。私をからかう時のやつですね今は見たくなかった!
「大丈夫、あなた上層部には結構評判いいから!っていうか、ダーリンには~、隠し事できないのっ(ハァト)」
……ああ、そうだ。
先輩の旦那様、王弟殿下で
プロポーズの言葉は、来世もその先もずっと一緒にいようね、と、いつか二人だけの世界で生きて行こうねだもんね…。
ははは…。
くっそー!私が迂闊だった!
根回し先、間違えた!!
「大丈夫。悪いようにはしないわ!サティが目立つの嫌悪してるの知ってるし、ご実家に不利な事は絶対にないようにするわ。(あのシスコン
迫力満点笑顔でそうおっしゃる先輩。ソウデスネ黒も白に変える力をお持ちデスヨネ権力とか権力とか権力とか…
遠い目をしている私に、先輩はちょっと眉尻を下げた。
「正直なところ、転生課は深刻な人手不足なの。でも信頼できる人にしかお願いできないし…。その点、サティが来てくれたらとても助かるの。
それに、転生関連の業務にいれば、何かあった時に色々便宜を図れると思う。最悪、転生知識はサティには無いって事にさえ出来るんじゃないかしら。」
思ってたより凄く心配されていた!!
しかも最大限まで守ってくれるつもりなのね…
私は昔から、彼女の困った顔に弱いのだ。
……もう、腹くくるしかないな。
「辞令、謹んでお受け致します。」
私の、ため息と共にした返事に先輩は、大輪の花が開くような笑顔をくれた。
「それじゃあ早速!!」と、抱えきれない資料と共に。
くぅぅ…。恩に報いる為にも、転生課のお荷物にならないようにしないと…。
しかし、この資料の多さ…マジですか…?
アッハイ、出来る限り前向きに善処させていただく形で…がんばる…。
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