その後

 今日は入学式。スーツを身に纏い、学びの場へと向かう。

 学校は遠く、毎朝早い時間から家を出なければ電車には間に合わない。今日だって早起きしたが、これが毎日続くと思うと少々つらい。しかし希望はある。これから輝かしい生活が待っているのだと思うと、楽しみで仕方ない。



 自分自身が希望した進学先。楽しみなのは違いない。……そのはずなのに。



 不安が絶えないのは何故だろうか。勉強についていけるか?いや違う。ならば、友達が作れるだろうか?それもあるだろうが、一番はそれじゃない。


「沙霧は……」


 沙霧は今頃どうしているだろうか。その思いが溢れてしまう。零れてしまう。

 電車のホームに立っていると、あの日のことを思い出した。雨に降られた日ではない。それよりずっと以前のこと。

 校外学習とは名ばかりの、学校ぐるみで遊園地に行った時のことだ。あの日から考えると、大分精神的にも大人に近づいたと思うが、比例してあの頃に戻りたいと言う気持ちも増えていく。勉強はしていたが、純粋に楽しんでいたのはあの日だろう。二人きりで遊園地を回り、遊び倒した。解散になってからも、制覇を目指すべく回り倒し、最後に観覧車に乗ったっけ。

 だか、もう戻れないのだ。連絡こそとっているが、もう会うことはほぼないだろう。

 ……要らないことを思い出したな。



 胸が痛くなる。まるで体にぽっかりと、不自然な穴が空いたような。

 なんだかなぁ。これで終わりが嫌、なんて言っときながら何もしてなくて。


 後悔と不安と。このモヤモヤした気持ちは何だろうか。実に不快だ。沙霧が他の男と仲良くしているところを想像しただけでも自分の胸を裂きたくなる。切り開いて、この気持ちをどこかへ放り投げたい。

 ……考えすぎなのかもしれないが。いや、考えすぎなのだろうが、勝手にそんな“考え”が浮かんでしまうのだ。


 はぁ、とため息をつく。


「困るんだよなぁ」


 俺は勇気を出して、携帯を取り出す。


「もしもし、沙霧?」

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糸雨空 Racq @Racq_6640

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