第33話 私に向けて欲しい(語り:ヴィル)
いかにも本を読まなそうな屈強な男が、私の前に本を置いた。
私は本を受け取り、中に紙を挟んで男に渡した。
『夜、司書室にて』
紙にはそう書いた。
デューク団長に似ているかもと思って声をかけたが、それは私の勘違いだった。
代わりなんているわけがない。
分かっているのに、止められない。
デューク団長はあんなに乱暴に抱いたりしないだろう。
もっと優しく、確かめるように体をなぞって、そして……。
唇に自分の手を当てる。
聖女様には「幸せにしてくださってありがとうございます」なんて言ったくせに、私は今もデューク団長のことを考えている。
私の恋愛対象が、女性ではないと気づいたのは、15歳の時だった。
当日、私の身の回りの世話をしてくれていた執事の男に、私は密かに恋心を抱いていた。
年上で、私の事ならなんでも知っているその男に、いつの間にか、もっと私の奥深くを知って欲しいと思ってしまっていた。
その欲は収まることなく、日に日に大きくなっていく。
私は毎晩、ベッドの上で、その男に抱かれる想像をしながら、自慰行為を繰り返していた。
だが、いくら自分で慰めても、欲が消えることは一向になく、むしろ「もっと、もっと」と、さらなる快感を求めるようになっていた。
ある日の夜、眠れないので水でも飲もうと厨房に向かっていると、声が聞こえてきた。
最初は誰かが仕込みでもしているのかと思ったのだが、近づくにつれその声が、規則的に聞こえてくるのがわかった。
心臓がドクンドクンと、うるさく音を立てる。
少しだけ開かれた扉から、光が漏れていた。
見てはいけない。
誰かが私にそう言っているような気がする。
しかし、私はその忠告を無視するかのように、光が漏れている場所から中を覗いた。
そこに居たのは、メイドの女と、その女に後ろから覆いかぶさっている執事だった。
執事は、メイドの口を手で塞ぎ、声が漏れないようにしながら、自分の欲をぶつけていた。
あんなに乱れている執事を、私は今まで見た事がなかった。
執事は、いつも無表情で私に接していたから。
私はその場で服を脱ぎ、固く膨らんだ自分のものを触った。
あの執事なら、どういう風に触るだろうか。
私のことを、どんな風に見るだろうか。
すると、執事がふとこちらを向いた。
今でも忘れない。
こちらを捉えて離さない、欲を含んだあの瞳を。
そうか、私はあの男に抱かれたかったのか。
気づいた時には、もうあとには戻れなかった。
デューク団長を好きになったのも、理由は簡単だった。
リアム団長を見る目に、欲が含まれていたから。
あの目を見るとゾクゾクした。
一人の男を羽交い締めにして、自分だけのものにしたいという目。
情欲と、少しの狂気を混ぜた目。
私に向けて欲しい。
しかし、どんなに願っていても、あの目が私に向けられることはなかった。
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