第32話 面白くなりそうですね

「え!?ヒュー団長に聖水渡したんですか!?」




あの後、マリア様の元を訪ねると、マリア様はヒュー団長に聖水を渡したと言った。


まさか、マリア様がヒュー団長に聖水渡すとは思っていなかった。


ヒュー団長は信用出来ないし、何に使うかも分からないのに。


そう思い、マリア様に聖水を渡した理由を聞いた。




「何故渡したんですか?」




マリア様はニコリと笑った。




「ヒュー団長が、ヴィル司書のことが好きだと言ったからです。」


「え!?」




ヒュー団長が司書様のことを好き……?




ヒュー団長が司書様と話しているところなんて、この間の図書館での一件以外見たことがない。


それに司書様はデューク団長のことを想っている。


もし仮に、ヒュー団長が本当に司書様のこと好きだったとして、聖水を司書様に使ったとしても、この二人が両思いになることはないのではないかと思った。




大層な理由を並べているが、ヒュー団長が信用出来ないというのがいちばん大きい。


司書様を傷つけるために使おうとしているのではと、思わずにはいられない。


そんな心配がマリア様に伝わったのか、マリア様はふふっと笑った。




「そんなに心配しなくても、ヒューなら大丈夫ですよ。」




ヒュー?




「……ヒュー団長とお知り合いなのですか?」


「幼なじみなのです。」




マリア様とヒュー団長が幼なじみ……。


全然想像つかない……。


でも、だからだったのか。


マリア様が私に何の話もなく聖水を渡すなんて、珍しいなと思ったのだ。


幼なじみであるヒュー団長のことを、マリア様は恐らく信頼しているのだろう。


私には、どこにそんなに信頼する要素があるのか皆目見当もつかないけど。


でも、マリア様が信じているなら、私もヒュー団長を少しくらい信じてみよう。




「それにしても、なんで司書様のことが好きなんですかね?」




私は疑問に思ったことをそのままマリア様に伝えた。


信用はする。


でも不思議なのはそこだ。


ヒュー団長と司書様。


2人が楽しそうに話しているところは愚か、目を合わせているところすら見たことがないのだが。


むしろ、最近は私にばかり付きまとっていた気がする。


そんな疑問を抱えていると、マリア様はニコニコしながら私に話し始めた。




「私、この前見てしまったのです。」


「?何をですか?」


「ヒューがヴィル司書に取り引きを持ちかけているところを。」


「取り引き?」


「はい。どうやらヴィル司書は、複数の男性と関係を持っていたみたいです。」


「え!?」


「なので、ヒュー団長は『秘密をバラされたくなかったら、俺のおもちゃになれ』と。そう言ってました。」


「!!」




なるほど、つまりあれか。


脅迫系BLか。


攻めが受けの弱みを握っているようで、実は逆ってやつか。




正直、司書様が他の男と関係を持っていたというのは驚いた。


だって、デューク団長のこと好きだって言ってたし。


でも、もしデューク団長への恋心を諦めるために、ヤケになっていたんだとしたら?


それを見て、ヒュー団長が知らず知らずのうちに司書様を好きになっていたんだとしたら?


これは傑作BLの予感!!!


やばい、鼻血出そう。




「これはなかなか面白くなりそうですね。」


「ええ。」




私とマリア様は固い握手を交わした。

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