第30話 幸せにしてくださって、ありがとうございます

私は、司書様に連れられて宮殿の中庭に来た。


美しい花が一面に咲き誇っていて、しかしすごく落ち着く場所であった。


私たちは近くにあったベンチに腰掛ける。


こんなに素敵な場所に来ているのに、私はずっと浮かない顔をしていた。


まず何から謝ればいいだろう。


司書様を見ていたことだろうか。


そして、心の中で崇拝しまったことを謝って。


よからぬ妄想をしていたことは言うべきか。


でも、それも見透かされている気がする。


私はそればかり悶々と考えていた。




「聖女様?」


「はい!すみません!」




考え事をしていた時に声をかけられ、私は思わず謝罪してしまった。




「ふふっ、なぜ謝るのですか?」




司書様は控えめに笑った。


司書様は笑うと目尻にシワができるのだなぁ。


今まで遠くから見ていた時は、少しだけ悲しそうな顔をしていたような気がしたから、笑っている司書様を見ると、こっちまで温かい気持ちになった。




「突然、申し訳ありません。」




司書様は深々と頭を下げる。




「いえいえ!どうせ暇でしたから!」




私は手と首をブンブンと横に振った。




「先日も、聖女様に不快な思いをさせてしまって、申し訳ありませんでした。」




先日……。


ヒュー団長と一緒にいた時のことか。




「司書様は助けてくださったじゃないですか。何も謝ることはありません。」




ヒュー団長は私に謝罪するべきだけどね。


心の中でヒュー団長に悪態を着いた。




「あの人は、恐らく勘違いをしているのです。」


「勘違い?」


「聖女様が私に恋心を抱いているという、盛大な勘違いです。」




恋心?


私が?


司書様に?




「……何故?」


「ふふっ。」




司書様はまたふわりと笑った。




「あの人の考えてる事は、私にもよく分からないのです。」




そう言って、司書様は自身のことを話し始めた。




「私には好きな人がいます。」


「え!そうだったんですか?」


「はい。……でも、その人と結ばれることはありません。」


「……何故ですか?」


「簡単な話です。その人にはもう、大事な人がいるのです。」




司書様は悲しそうな顔をした。


司書様がフラれた?


こんなに綺麗で優しくて素敵な司書様が?


どこのどいつだ。


私は怒りを隠しきれず顔に出してしまい、また司書様に笑われた。




「ちなみに……どなたなんですか?その、司書様の想い人というのは。」




不躾な質問だと言うのは分かっている。


でも、もしかしたら私にも協力出来ることがあるかもしれない。




「……デューク騎士団長です。」




……え?




「すみません、びっくりしましたよね?私も、ヒュー団長が聖女様に付きまとわなければ言うつもりもなかったのですが。」




……今、なんて言った?




「やはり、気持ち悪い……ですよね?男が男を好きなんて。聖女様にこんなことを言うなんて、私はどうかしてました。」




私の聞き間違い……?




「あの、デューク団長って言いました?」


「え?……はい。」


「あのムキムキの?」


「ムキムキ……そうですね。」


「不躾でガサツな、あの?」


「……ああ見えて、意外とやさしいところもあるのですよ。」




司書様の頬が赤く染った。




やばい。


デューク団長とリアム団長をくっつけたの、私だ。


いるとは思っていた。


デューク団長のことが好きで、思いを寄せてる人くらい、いるだろうとは思っていた。


でも、それが司書様だったなんて。


元々デューク団長とリアム団長が想いあっていたとはいえ、背中を押したのは私だ。




「すみません……。」




私は司書様に謝った。




「なぜ聖女様が、」


「私なんです。」


「……え?」


「私がデューク団長とリアム団長をくっつけたんです。」




さっきまで、風の音や鳥の鳴き声が聞こえていた気がしたが、今は何も聞こえなくなった。


司書様の顔を見れない。


体中がドクンドクンと波打っている。


視界がギュッと狭くなった気がした。




「聖女様。」




司書様に呼ばれた。


私はゆっくり顔を上げる。


司書様は、どんな顔をしているだろう。


怒りか、悲しみか。


しかし、そこにあったのは、私が想像していなかった顔だった。




「デューク団長を幸せにしてくださって、ありがとうございます。」




司書様は、心から感謝をしているような、そんな表情で笑っていた。

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