第29話 好きな子に振り向いて欲しいだけ
「ということがありまして。」
マリア様との定例会議の日。
今日の議題は、ヒュー団長についてだった。
毎日のように付きまとわれていること、何故かは分からないがマリア様が作った聖水について知っていること、そしてそれを欲しがっていること。
私はこの一週間で起きた出来事を全て話した。
「何故ヒュー団長は、あんなに聖水を欲しがっているのでしょうか……。」
ヒュー団長が何かを企んでいることは明白だ。
正直、前の2人に聖水を渡したのは、彼らのことをきちんと信用していたからだ。
しかし、ヒュー団長のことは信用していない。
もしヒュー団長があの聖水を悪用すれば、その責任を取らされるのは、私ではなくマリア様だ。
私はマリア様にそんなことをさせたくて、ダークサイドに引き込んだ訳では無い。
「私は、ヒュー団長には聖水を渡したくないです。」
何を企んでいるかはわからない。
でも、その企みがよからぬ事であることはわかる。
であれば、なんとしてもヒュー団長の手に聖水が渡らぬよう阻止せねば。
しかし、マリア様からは意外な返答が帰ってきた。
「渡しても良いのではないでしょうか?」
「え、何故ですか?きっと悪用しますよ、あいつ!」
「そうでしょうか?」
マリア様は首を傾げた。
いや、そうでしょ!
マリア様だってヒュー団長と話したことくらいはあるはずだ。
あの腹に一物抱えてそうな雰囲気、人を小馬鹿にする喋り方、どれをとっても信用なんかできない。
「ヒュー団長は、意地悪に見せているだけで、本当はただ好きな子に振り向いて欲しいだけかもしれませんよ。」
マリア様はそう言った。
ヒュー団長に好きな人?
果たしてそんな人が本当にいるのだろうか。
マリア様との定例会議を終えた私は、図書館で本を読みながらそんなことを考えていた。
好きな子に振り向いて欲しいと思ってる人が、聖水が欲しいなんて言うだろうか。
マリア様はああ言ってたけど、やっぱりヒュー団長のことはあまり信用出来ない。
そう思っていると、読んでいる本が真っ暗になった。
人影だ。
もしかして、ヒュー団長にずっと付けられていたのだろうか。
嫌な汗が流れる。
そっと人影のある方を見てみると。
「今日も読書ですか?」
そこには爽やかに笑う司書様がいた。
嫌な汗が一気に引いていく。
安堵の表情を浮かべながら、司書様の問いに答えた。
「あまり難しい本は読めませんが、こういった本は楽しいのですぐ読みたくなってしまうんです。」
「わかります。気づいたら時間が経ってしまっていますよね。」
司書様の笑顔が眩しい。
それにしても、前もそうだったが司書様から話しかけてくれるなんて、一体どうしたのだろう。
いつも遠くから見ていたのに、話しかけられると緊張してしまう。
「何か、私に用事でも……?」
私は恐る恐る聞いた。
も、もしかしてこっそり見てるのバレてた?
実は心の中でずっと崇めてたのバレてた?
司書様と他の人でよからぬ妄想してたのバレてた?
私の悪事はあげればキリがないほどいっぱいあった。
どうしよう、まず謝罪しなければ。
そう思った瞬間、司書様はこう言った。
「今から少しお時間よろしいでしょうか?」
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