第28話 聖女様は、あの司書がお好きなんですか?

「聖女様、私にもあの聖水をお恵みください。」




図書館で会った時以来、私はヒュー団長にことある事に絡まれていた。




何なのよ、もう!!




聖水を作ってる作業部屋に押しかけて来たり、食事の時にわざわざ目の前に座ってきたり。


私の行くところ行くところにずっと着いてきた。


正直私の精神はもう限界だ。


ただでさえヒュー団長のことは苦手なのに、こんなに四六時中つきまとわれたらたまったものではない。


私はヒュー団長を無視して、図書館へ向かった。


こういう時こそ気分転換だ。


ヒュー団長はいるが、私は自分のことだけに集中した。


今日選んだ本は、小さな街に生まれたごく普通の少年が、間違えて入った洞窟でドラゴンを倒してしまう話。


この世界にもこんなラノベみたいな作品あるんだなぁ。


そう思いながら本を読む。




「聖女様。」




へー、少年は実は魔王の子だったのかー。




「聖女様。」




わー!ドラゴンが仲間になったー!




「『せ』『い』『じょ』『さ』『ま』。」


「何なのよ!!」




私は本を机に叩き、ヒュー団長を睨んだ。




「聖女様は、あの司書がお好きなんですか?」




ヒュー団長はニコニコしながら私に聞いた。


ちっ、司書様を見ていたこともバレてたのか。


私をからかうような物言いに腹が立った。




「そりゃまぁ、推しですからね。」


「オシ?」


「憧れてるってことです。」


「なるほど。」




ヒュー団長はケラケラと笑った。


しかし、それと同時に、からかっているヒュー団長の目が笑っていないことに気が付いた。


背中に何かが這うような感覚を感じる。


その目に宿っていた感情は、怒りと、嫉妬。


ヒュー団長は、明らかに私に敵意を向けていた。




「どうかされましたか?」




誰かに声をかけられ、息をするのを忘れていたことに気づく。


嫌な汗が、徐々に引いていった。


誰だろう。


そう思っていると、ヒュー団長が立ち上がった。




「これはこれは。ヴィル様ではありませんか。」




──ヴィル様?


びっくりして勢いよく振り向いてしまう。


私たちに声をかけてきたのは、あの麗しき司書様だった。




「ここは図書館です。お静かにお願い致します。」




初めて司書様の声を聞いた。


男性にしては少し高い声だが、凛々しくて、印象を裏切らない声だ。


私は司書様に謝った。


すると、司書様がポケットから1枚のハンカチを出した。




「すごい汗ですよ。あまり体調がよろしくないのではないですか?」




司書様が私を心配してくれた。




「だ、大丈夫です!ご心配頂きありがとうございます!」




私は司書様に深々とお辞儀した。


断ったあと、やはりハンカチを受け取っておけば良かったと後悔したが、司書様に声をかけられたというだけで天にも登るようだった。




「では、私はこれで!」




私は本を閉じ、司書様にもう一度挨拶をしてその場を去った。





「お前、」


「聖女様に何かしたら許さない。」




そんなやり取りをしてるとも知らずに。

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