第26話 私にもお譲りいただきたいのです
「結局街には来なかったのですね。」
私は、森の中であった出来事、そしてガロウ様とノアの恋の行方について、マリア様に報告した。
「はい。でも、森の入り口辺りには引っ越してくるみたいなので、前よりは行き来しやすいかと。」
ガロウ様の家から帰ってきてから数日後、ガロウ様から手紙が届いた。
内容は、街にはまだ怖くていけないけれど、街の近くで人々を見守りたい、というものだった。
ガロウ様らしいと思う。
まぁ、あのまま山奥に住んでいても良かったはずなのに、街の近くに引っ越してくるってことは、そういうことなんだろうけど。
ガロウ様に、ノアが男であることを伝えたあと、私はこっそり2人の後をつけていた。
ドアの前で何やら喋ったあと、ノアは媚薬を飲み、ガロウ様に抱きかかえられて部屋の中に入っていった。
もしかしたら、ガロウ様はても出さず部屋から出てきてしまうかもしれない。
そう危惧していたが、ガロウ様は10分経っても部屋から出てこなかった。
次の日、ノアは終始とろんとした目でガロウ様を見ていたので、やはりそういうことなのだろう。
デューク団長はともかく、私に対しても恐怖心を持っていたような人が、ノアのことは恐れずに触れるなんて。
「本当に良いBLでした。」
私は心の中で合掌した。
「わたしも、間近で幸せの瞬間を見てみたかったです。」
マリア様は残念そうな表情を浮かべた。
私だけでもすごく反対されたのに、マリア様が山に行くなんて言ったら、きっと騎士たちは卒倒するだろう。
私も一部始終は見ていない。
ドアの前で何か話していたが、その内容も全く聞こえなかった。
何で、ガロウ様はノアにだけ触ることが出来たのだろう。
あんなに怖がっていたのに。
ノアも何か思い出している様子だったし、二人の間には、助けられる以前から何かあったのかもしれない。
そう思ったが、「何があったの!?」などとノアやガロウ様に聞くのはさすがに野暮なので、私は自分の好奇心にそっと蓋をした。
「それにしても、『魔女』という存在がいるというのは少し気になりますね。」
マリア様も、魔女の存在については何も知らなかったらしい。
先々代の聖女様に関しても、私と同じく早くに亡くなられたということしか知らなかったみたいだ。
1000年も前から魔獣を使役して魔力を奪っていたのに、その存在すら誰も知らないなんて、一体何がどうなっているのだろう。
何だか、胸騒ぎがする。
マリア様の報告を終え、私は久しぶりに図書館に行った。
さすがにBL小説はないが、男性が活躍する物語なども多くあるので、それを読んで、脳内で勝手に推しCPを作ったりしていた。
あとなんと言っても、司書様がとんでもないほど美形なのである。
やはりこの世界はBLの世界なのでは?
小説を読み、推しCPを作り、司書様を眺める。
これが最近のマイブームなのである。
小説を読みながら、たまに司書様も眺めていると、私の目の前に誰かが座った。
麗しい司書様をせっかく眺めていたのに。
しかも、目の前に座ったのは、私があまり好きではない人物だった。
「おやおや、聖女様ではありませんか。」
白々しくそう言ったのは、蛇のような雰囲気の男───ヒュー・スタインバーグ第2騎士団長だった。
「一体何の用ですか。」
私はヒュー団長を冷たくあしらう。
「そんなに警戒なさらなくても、とって食ったりはしませんよ。この世界の大事な大事な聖女様ですからね。」
本当、この男の言い方は回りくどい!!
私はヒュー団長の喋り方にイライラして、つい貧乏ゆすりをしてしまう。
「ご要件を。」
私はヒュー団長を睨みつけた。
「では、聖女様の怒りが頂点に達しないうちに。」
そう言って、ヒュー団長は顔を近づけてきた。
「ノアに渡したものと同じものを、私にもお譲りいただきたいのです。」
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