第24話 飲んでも大丈夫(語り:ノア)

聖女様とデューク団長と、目の前の獣人……『ガロウ様』が真剣な話をしている時、僕はふとガロウ様の体を見た。


服で隠れていてよく見えなかったけど、腕の部分に少しだけ傷があるのが見えた。


多分、僕を助けた時にできた傷だ。


やっぱり、ガロウ様は怪我をしていた。


僕を助けたから。




話し合いが終わって、僕たちはそれぞれ客室に案内された。


何でかは分からないけど、聖女様が僕を案内するようにガロウ様に言った。


そういえば、ここに来る途中、聖女様から聖水も渡されたんだった。


聖女様は「自分が好きだなと思う人の前で使いなさい」って言ってたけど。


僕の好きな人。


好きな……人……。


僕はガロウ様の背中を見つめた。


僕とは比べ物にならないくらい、すごく大きな背中だ。




「……好きだなぁ。」


「え?」




心の声が漏れてしまった。




「な、なんでもない、です……!」




僕は慌てて否定した。


何を言っているんだろう。


助けて貰った人にやっと会えたから、興奮してるのかな。




「そういえば、」




そんなことを考えていると、ガロウ様が僕に声をかけてきた。




「は、はい!」


「……先に謝っておきますが、申し訳ありませんでした。」


「?」




何のことを言っているのかわからなくて、呆けた顔をしてしまった。




「私、あなたのことを、その……女性の方だと思っていて……。」


「え!」




女性!?




「勘違いをしてしまい申し訳ありません。先程、聖女様にそう言われて、初めて気が付きました。」




ガロウ様は僕のことを女の人だと思ってたの?


……もしかして、だから助けてくれたの?


僕のことを女の人だと思ったから助けたけど、女の人じゃなかったからガッカリしたのかな。




「着きました、ここがあなたの……」




ガロウ様は僕を見てぎょっとした顔をした。


どうしよう、ガロウ様の前で泣いちゃった。




「ど、どうかしましたか?」




本当にどうしちゃったんだろう。


分からない。


でも、すごく悲しい。




「どこか痛いですか?」


「む、胸が……」


「心臓ということですか!?」




ガロウ様は僕の答えを聞いて慌て始めた。


胸がとても痛い。


ギュッてする。


……あ、そうだ。




「聖水が、あります。」




聖女様から聖水を貰ったのを思い出した。




「本当ですか!ではそれを、」


「あ、でも……。」




これ、好きな人の前でしか飲んじゃダメって言われた。


好きな人……好きな人……。




僕、ガロウ様のことが好き。


ガロウ様は僕を助けてくれた。


女の人と間違えただけかもしれないけど、でも僕は、ガロウ様に感謝してる。




「僕、ガロウ様のこと、好き」


「……え?」




僕は、聖女様から貰った聖水を鞄から出して、一気に飲んだ。


あれ?


体がポカポカする。


それに……。




「ノア!」




ガロウ様に抱きかかえられる。


ガロウ様が、心配そうに僕の名前を呼んだ。


なんだか、お日様みたいな匂いがする。


ガロウ様の匂いかな。


でもなんだろう。


僕、前にもこの匂い嗅いだ気がする。

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