第23話 みんなが幸せになればいい

みんな、何言ってんだこいつみたいな顔をしている。




この世界には、人間同士であっても身分の差が存在する。


日本にも、収入格差とかそういうものはあったが、この世界の格差はより顕著なように思う。


ノアだって、魔法が使えなければ未だに苦しい生活を強いられていたかもしれない。




ガロウ様は、悠々自適な生活をしていると思う。


命を狙われる心配はあるだろうが、それは街にいても同じだ。


いつ魔獣の群れが襲ってきてもおかしくはない。


しかし、やはり思ってしまうのだ。


一人は、心細い。




「私はこの世界に来た時、色々な方に心配されました。『異世界に家族や友人がいたはずなのに』『1人できっと心細いだろう』って。でも、この世界に来て、心細いって思ったことないんです。」


「……え?」




それは、デューク団長が話しかけてくれたから。


リーナが付き添ってくれたから。


マリア様が、私を常に気にかけて、想ってくれたから。




「だから私は、この世界にいてよかったなって思えたんです。」




ガロウ様が目を見開いて私を見た。


多分、デューク団長も驚いた顔してるんだろうな。




「もし、ガロウ様に何か言う奴がいるなら、私がぶっ倒してやりますよ。」


「……ぼ、僕も!」




ノアが立ち上がって挙手をした。




「僕も、ぶ、ぶっ倒します!」




ノアも私の意見に賛同する。


やっぱりノアは可愛いなぁ!!




「わしらはどうなるんかのぉ。」


「もちろん、嫌じゃなければ一緒に来てください!」


「はっはっ、聖女はやはり変わっているのぉ。」




ガロウ様も楽しそうに笑った。


しかし、デューク団長から険しい表情は取れなかった。




「だめですか?デューク団長。」




そう聞くと、




「……わかんねぇ。」




デューク団長はそう呟いた。




「俺は、両親を魔獣に殺された。それが悔しくて、強くなりたくて、地元の自衛団体に所属した。でも、俺の大事なものはいつも魔獣が奪っていった。」


「デューク団長……。」


「俺だけじゃない、魔獣が襲ってきて住むところを奪われた奴もいる、家族が目の前で殺されるのを見た奴もいる、婚約者が、友人が、子供が、たくさんの人が殺された。魔獣は魔女に操られてたって?魔獣も魔女の犠牲になってただけだって?魔獣は何もかも奪っていった。その事実に変わりはねぇ。お前だって、神力使って呪いを解くまでは、人を殺してたんだろ。俺には、自分の行動を正当化してるようにしか見えねぇがな。」


「デューク団長、」


「聖女よ。そいつの言っていることは、ごもっともじゃ。わしも人を殺した。たくさん魔力を奪ったのじゃ。」




ロウエンはそう言った。


確かに、デューク団長の言っていることは、正しいのだと思う。


事実、魔獣たちは人間を襲っていて、悲しい思いをした人もたくさんいる。


その悲しみは、きっと無くならない。




「でも、私たちが変わらなければ未来もないわ。」




ただ同じことを繰り返すだけ。


そんな人生はつまらない。


人生は簡単にはやり直せない。


でも、いつでも状況を変えることは出来る。




「私は、みんなが幸せになればいいなと思ってる。そこに例外はない。」


「……みんなから認めてもらうには、時間がかかるぞ。」



「じゃあ、長生きしなきゃね。」

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