第22話 提案があって伺ったのです

獣人は、人間から虐げられて生きている。


魔獣から狙われ、いつ攻撃されてもおかしくないと、ロウエンも言っていた。


きっと、孤独で寂しい思いをしているんだろう。


今にも崩れそうな、小さな小屋の中で。


そう思っていた。




「帰りましょうか。」


「「え。」」




何だこのデカい家は!!!


お城じゃん!!




嘘つきと言わんばかりにデュークを睨んだ。


これは別に孤独でもなんでもないのでは?


むしろ悠々自適に生活しているのでは?


綺麗に整えられた庭、彫刻のようなインテリア。


おい、蝶々まで飛んでるぞ。


今までの禍々しい森の雰囲気はどこに行ったんだ。


これは、山奥に追いやられているというより、自ら望んでここにいるのでは?


そう思わざるを得ないほど、素晴らしいお家だった。




「そんな寂しいことを言うでない。ガロウ様に会いに来たのじゃろう?」




そうだ、目的を忘れてはいけない。


ノアは獣人に感謝の気持ちを伝えたいと言った。


せめて、ノアの願いは叶えてやらねば。




家の中は、嫌味にならない程度にインテリアが置いてあり、家主の性格が何となく伝わってくる。


私たちが家の中を見渡していると、奥の階段から誰かが降りてくるのが見えた。


綺麗な毛並みに、黄色く鋭い瞳。


体格は、デュークよりも大きい気がする。




「ガロウ様。」




ロウエンが彼をそう呼んだ。


この人が、『獣人』のガロウ様か。


風貌的にはすごく怖い人のように見えるが、何となく優しい雰囲気を纏っているように感じた。




「もしや、聖女様ですか?」




ガロウ様にそう尋ねられ、私は背筋を伸ばした。




「あ、突然申し訳ありません。私が名乗るのが先でしたね。申し遅れました、私はこの家の家主である、ガロウと申します。」




ガロウは私に深々とお辞儀をした。




「なぜ私が聖女だとお気付きに?」


「私には、少しですがスフィア様の神力が宿っているのです。なので、同じ神力を持つ方は何となく知ることができます。特にあなたは神力がとても強いので、聖女様であることは明白です。」


「ちなみに、わしやこの子にも、スフィア様の神力が宿っているぞい。」




そうか、だからロウエンも初めて会った時に、私が聖女だと分かったのか。


まぁ、私は全然わからなかったけど!




私達も挨拶を済ませると、ガロウ様は客室に迎え入れてくれた。




「急にお尋ねして申し訳ありませんでした。」




私がそう言うと、ガロウ様は優しく「とんでもございません」と言ってくれた。


すごく優しい人だ。


今まで嫌な思いもいっぱいしただろうが、恐らくそれだけではなかったのだろう。


私はともかく、デューク団長のような不躾な男にも、丁寧に接してくれた。


デューク団長は終始微妙な顔をしてたけど。




「実は、ガロウ様に会いに来たのには理由がありまして……。」




私は早速本題を伝える。


そう、ここへ来たのには理由があるのだ。


私がそう言うと、ノアが立ち上がった。




「あ、あの!ぼ、僕のこと、覚えていらっしゃいますか……!」




ノアがそう言うと、ガロウ様は優しく微笑んだ。




「もちろんです。あの後、無事帰れましたか?」


「は、はい!あの、あの時は、ありがとうございました!」




ノアは勢いよく頭を下げる。


危うくテーブルに頭をぶつけそうになっていた。




「とんでもございません。私に出来ることをしたまでですから。」




本当に優しい人だ。


でも、私は見逃さなかった。


ガロウ様の手が、わずかに震えていることに。


デュークが険しい顔をしているからというのもあるだろうが、それだけではない、もっと根本的なものが原因のように思えた。




「やはり、人間は怖いですか?」




私が問いかけると、ガロウ様の表情が強ばった。




「……申し訳ありません。人とは、あまり関わってこなかったもので。」




ガロウ様は、ギュッと自分の手を握りしめる。




「私たちが急に押しかけてきて来たのですから、謝らないでください。ね、デューク団長。」


「……何だよ。」




恐らく複雑な気持ちなのだろう。


普通に森に住んでいた生き物が魔獣に変えられたということは、本当に人を襲っていたのは魔獣ではなく、魔女だ。


今まで忌み嫌っていた魔獣すらも、言わば魔女の餌食となっていたのだ。


自分の感情をどこにぶつけていいのか分からなくて、戸惑っている様子だった。




「ガロウ様、実は私、1つ提案があって伺ったのです。」

「?」




ガロウ様は不思議そうに私を見た。




「私たちが住んでる街に、引っ越してきませんか?」

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